大統領選はドイツでどのように報じられたか

阿部津々子




 8日のポーランドの大統領選挙はドイツのメディアでも報じられたが、予想通りの現職の再選であったためか、9日現在、それほど大きな紙面を割いている新聞は見当たらない。ポーランドに対する高い関心と豊富な情報量で知られるメルキシェ・オーデル新聞は、以下のような記事を掲載した。

(参考記事: 『メルキシェ・オーデル新聞』2000年10月9日号)

クファシニェフスキが大統領選で勝利
−最終予測得票率によれば第一回投票で過半数を獲得−


 ワルシャワ 昨日のポーランド大統領選挙の勝者は現職のアレクサンデル・クファニェフスキ氏。非常に精度の高い最終予測得票率によると、クファシニェフスキ氏は56.1%得票率を獲得し、第一回投票で再選を決めた。クファシニェフスキ氏は、選挙戦初期の所信表明において、全てのポーランド人の大統領となる意志、選挙戦中盤では「特定の個人や団体のための勝利ではなく、ポーランドの勝利のため」に戦うことを繰り返し強調した。クファシニェフスキ氏は、テレビで大統領任期中の最大の課題はヨーロッパ連合(EU)へのポーランド加盟であると明言した。また、そのためには、前提として、ポーランドとポーランド国民が準備を始めなければならず、加盟に向けての改革が早急に実行に移されなければならないと語った。1000人以上の支持者からなるクファシニェフスキ陣営の選挙運動員らは、歓声と、ポーランドの伝統的な誕生日唱歌「スト・ラト」(「友よ、百年生きたまえ」)の斉唱で氏を中央に迎えた。

 暫定的な選挙結果の発表は昨日深夜に行われた。全国選挙委員会は、正式な選挙結果を本日正午に発表する意向。

 投票所の閉鎖後20分後にすでに発表された最終予測得票率によれば、45歳のクファシニェフスキ氏が他の11名の候補を大きく引き離して優勢ということであった。元外務大臣で実業家のアンジェイ・オレホフスキ氏が18.1%の得票率で二番手。保守政党の党首マリアン・クシャクレフスキ氏が13.7%の得票率で三番手。ノーベル平和賞受賞者のレフ・ワレサ氏は、1995年の敗北以来大統領官邸への回帰を狙ったものの、惨敗という結果に終わった。同氏の得票率は0.8%に留まった。

 5年前にワレサ氏と接戦を演じたクファシニェフスキ氏であったが、今回は選挙戦開始当初から優勢であった。しかし、投票日間近になって過半数の得票が危ぶまれた。クシャクレフスキ氏の目玉マイナス・キャンペーンがクファシニェフスキ氏の支持率を大幅に引き下げることに成功したからである。クファシニェフスキ氏の側近がローマ法王の物真似をしたビデオシーンを公表し、クシャクレフスキ氏は、政敵クファシニェフスキ氏が大多数のポーランド国民の精神的価値に傷を付けたと非難したのである。


ワルシャワは現状維持 (解説:ディートリヒ・シュレーダー)


 ポーランドの選挙アナリストたちが予想していた通りの結果となった。アレキサンデル・クファシニェフスキ氏が第一回投票で大統領の座を獲得したのである。これはかつての修正共産主義者たちにとっては、感動的な地位回復と受け止められたに違いない。内政におけるクファシニェフスキ氏の、「連帯」系の少数派政府に対する比重は今後さらに大きくなるであろう。

 時期を繰り上げた国家議員選挙が来年初頭にも見込まれる。そして、クファシニェフスキ氏がかつて党首をつとめた社会民社党の勝利が早くも予測されるのである。

 外交においてもクファシニェフスキ氏の発言力は強まると思われるが、これはポーランドにとって非常に重要である。なぜなら、国際政治の舞台において、第一期EU東方拡大に際して、果たしてポーランドがEU加盟の条件を満たすことができるのか疑問視する声が高まって来ているからである。EU諸国だけでなく、キエフ、ウクライナとも親交の深いクファシニェフスキ氏が、EU加盟という目標達成に向けて強力に働きかけるであろう。

 付け加えて言うなら、この選挙は、1989年以来政権交代が行なわれなかった初めての選挙であったという点でも注目に値するものである。




 ポーランドの大統領選に関して、9日の紙面では選挙結果を事実に沿って淡々と報道したしたに留まったドイツの新聞各紙は、10日になって独自のコメンタールを発表した。以下に主要紙のコメンタール要旨をお伝えいたします。

『ズィード・ドイチェ新聞』(『南ドイツ新聞』: 本社ミュンヘン)

 ポーランド情勢に詳しく、「ポーランドのドイツ人」「クラカウからダンツィヒまで」などの著作で知られる著名なジャーナリスト、トーマス・ウルバン氏は選挙結果を以下のように分析した。

元共産党員第一回投票で再選を決定
−教会に近いAWS委員会は破滅寸前−


 再選決定後「これからは以前にも増して、全ポーランド人の代表を目指したい」と語ったクファシニェフスキ氏だが、先の任期中には目玉となる政策があまりに少なすぎ、再選を主たる目標として国民の人気集めに終始していた、というのが、保守・革新を問わず、政治評論家たちの一致した意見となっている。無所属のアンジェイ・オレホフスキ氏にはバルセロヴィッチ派の票に加えて都会の若手インテリ層の票が流れた。今回の選挙での真の敗北者はAWSのクシャクレフスキ氏である。ワレサ氏は出馬表明当初から勝算はなかったものの立候補を貫徹し、惨敗の結果が出た現在も政界から引退する意志はないと明言している。ワレサ氏はビラで「ユダヤ人」と誹謗されたと主張しているが、今までの選挙と違い、ユダヤ人問題は今回の選挙では全く影響力を持たなかった。クファシニェフスキ氏も、側近でブレイン役のマレック・シヴィエツ氏がユダヤ人であることに触れないよう配慮したが、シヴィエツ氏は投票日2週間前に公表された「法王物まね事件」でやり玉に上がってしまった。AWSは果たしてこのまま崩壊するのか、保守陣営内に渦巻く個人的敵対関係を乗り越えて再編なるかが今後の見所となる。AWSはブセック率いる少数内閣を構成している。   (10月10日付)

 また、ダニエル・ブレッスラ−氏は同紙に以下の要旨のコメンタールを発表した。

冒険よ、さらば。


 あのティミンスキ騒動から10年、今回の大統領選で、ポーランドは急速な成長を印象づけた。また、クファシニェフスキ氏は、元共産主義者がポーランドのEU加盟の指導者となれるのかという疑問に身を持って答える結果となった。ポーランドにはもはや政治的冒険の余地がなく、EU加盟のための大前提となる政治的安定性の要件は満たされたということができる。クファシニェフスキ氏の圧倒的勝利は、ポーランドの西欧回帰を象徴しているといえよう。




『ディ・ヴェルト』新聞(『世界』: 本社ベルリン)

解説:ゲルハルト・グナウク

クファシニェフスキ氏の「普通さ」


 ワレサ氏が馬車、バルツェロヴィチ氏があまりに西欧的な超ハイテク製品だとすると、クファシニェフスキ氏はポーランドで売れ筋の韓国製自家用車と言ったところだろうか。つまり、乗り心地のよさのわりに手ごろな価格、性能のわりに運転簡単、世界的にしてどことなく土着的、西側風にして東側風。そんなクファシニェフスキ氏の属性を一言で言うなら、「普通の人」だろう。その「普通さ」が「我々の一員」だという感覚を国民に与えたのではないか。また、改革の重荷を背負ったのがクファシニェフスキ氏ではなく、「連帯」系の政府であったことも、今回の氏の勝利につながったと言える。 (10月10日付)




『フランクフルター・ルントシャウ』新聞(『フランクフルトの展望』: 本社フランクフルト・マイン)

解説:クラウス・バッハマン

ポーランドはもう普通の国家だ


 クファシニェフスキ氏の問題点と言えば、先の任期中の無策と言うよりも、「社会主義学生連盟」時代に身についてしまった、社会主義青年風の立ち居振舞いであった。つまり、冗談を言いすぎたり、来賓に対して馴れなれしすぎたり、一杯気分で行動したりということであったが、今回の選挙結果から見てもわかるように、これが惨事を招くには至らなかったようだ。国民が再び選んだのは、この劇的なところのない普通人の大統領であった。ワレサ氏と、現在は政治家になった元「連帯」のヒーローたちは、一般市民の目には、社会主義時代における自分たちの権力との怠惰な馴れ合いを思い出させる無言の非難と映ったのではないだろうか。「連帯」の新世代の政治家たちは、社会主義時代を意識的に体験したというには若すぎる世代に属しているが、高い道徳的要求を掲げ、選挙戦をあたかも十字軍遠征のように展開してしまった。これに一般市民がついてこれず、クシャクレフスキ氏惨敗という結果をもたらしたのではないか。

 しかし、クシャクレフスキ氏が今回の選挙で遂げた功績は、AWS委員会よりさらに右に位置する極右勢力、つまり国粋主義者、反ユダヤ主義者、反EU論者らに票を与えなかったことだ。これは、来年の国会議員選挙で反EU勢力が国会に参入する危険性が極めて少ないことを意味している。AWSの今回の敗因は右傾化にあるため、以前の中庸さを取り戻すことが今後の課題とされなければならない。

 今回の大統領選は、1989年以降、根本的な変化がなかった初めての選挙であったが、これはこの間ポーランドが普通の国家になったことを物語っている。(10月10日付)

(翻訳・編集: 阿部津々子・ヴィアドリナ欧州大学 2000.10.09-10)