議会選挙2001(その6)

抜井宏樹(E-mail: hirokinukui@poczta.onet.pl)
COPYRIGHT by Nukui, Hiroki 2001



 この記事は抜井宏樹氏のご厚意により『ポーランドニュースレター・ワイド版 2001年9月26日号』から転載させていただきました。



最新得票率予想(26日現在)



下院


 

PBS

OBOP

 

予想得票率

予想獲得議席

予想得票率

予想獲得議席

SLD-UP

41.27%

219

41.48%

219

PO

12.70%

63

12.31%

63

SAMO-OBRONA

10.03%

53

10.28%

52

PiS

9.97%

47

8.92%

43

PSL

8.76

42

9.39%

43

LPR

7.67%

34

7.51%

40

AWSP

5.64%

0

5.70%

0

UW

3.14%

0

3.17%

0

ドイツ

少数民族

 

2

 

‐‐‐






上院


         

PBS

予想議席数

OBOP

予想議席数

SLD-UP

71

‐‐‐

BLOK SENAT 2001

16

‐‐‐

PSL

6

‐‐‐

SAMO OBRONA

2

‐‐‐

LPR

2

‐‐‐

その他

3

‐‐‐



予想投票率: 46%強

*SLD−UPが下院で過半数を占める可能性は低下しつつある。



ポーランド政界新時代の到来



本命民主左派同盟‐労働同盟(SLD−UP)連合の大勝



絶対過半数には達しない見込み

 選挙結果予想に従えば、選挙前の推測通りSLD-UPが圧倒的強さを見せ勝利。しかし、予想に反し下院での絶対過半数を獲得できない可能性が強い。

 選挙報道規制が明けた23日午後8時。国内の2テレビ局(TVP1及びTVN)が独自の選挙特別番組内で早くも選挙結果予想を報道。この時点では、SLD-UPの予想獲得議席は過半数の230議席をかろうじて上回る231議席、233議席と報道。SLD首脳陣の表情は一方では大勝した喜びと、他方で過半数獲得のラインをかろうじて上回るに及んだ予想議席数から生じる今後の展開への不確実性が混じり合う微妙ものであった。  明けて24日、時間が経過し選挙結果予想の精密度が増すにつれ、SLD-UPの予想得票率が低下。昼の段階では、過半数を11議席下回る219議席獲得という予想が出された。


今後の選択: 少数与党政権か連立か?

 下院内過半数獲得の可能性が低下しつつあるなか、SLD-UPの今後の選択に関心が高まっている。ミレル代表は、26日水曜日の選挙管理委員会の公式結果発表をとりあえず待ち、それ以後に具体的対策を考えるとしている。

 現時点では、SLD−UPは連立政権の選択肢を選ぶ可能性が大きいと噂されている。これに反しクファシニエフスキ大統領は、難問を多く抱えた現在のポーランドには政策を断固として推進できる強い政府が必要とされており、政府内の政策的妥協が要求される連立政権よりは少数与党政権の方が適しているという見解を発表している。

 連立のパートナーとして考えうるのは、「自衛」(SAMOOBRONA)かポーランド農民党(PSL)。市民プラットフォーム(PO)、「法と正義」(PiS)、ポーランドの家族連盟(LPR)はSLD−UPとの連立の可能性を否定している。


ベルカプラン少々先走り

 実際の投票でSLD―UPに対する支持率が数パーセント低下した理由として、次期蔵相候補のベルカが選挙直前に行った大胆な税制改革に関する発言が支持者離れにつながったと見られている。もし、ベルカがもう少しコメントを控えていたなら、SLD-UPの過半数はほぼ確実だったに違いない。




ポーランド政界新新時代に突入



現与党政党の惨敗

 事前に予想されながらも、実現する可能性が増大するにつれて各界にショックを与えているのは、現与党AWSP及び約3年間AWSと連立政権を組んでいたUWの両党が下院入りしないという事実である。ポーランド体制転換後、政界にて大きな役割を果たしてきた両党がともに下院から姿を消すことになった。特に、UW議員である元首相マゾビエツキ、現党代表ゲレメク両氏が議会から姿を消すことはポーランド政界の大きな損失であるというコメントが多い。


新たに4政党・政治グループが下院入り

 AWSPとUWに代り、新政党、新政治グループが議会に登場することになった。この新参4政党は市民プラットフォーム(PO)、「法と正義」(PiS)、「自衛」SAMOOBRONAそして「ポーランドの家族連盟」(LPR)である。

 しかし、新参政党といってもPO、PiS、LPRの首脳陣の多くはAWSあるいはUWから脱退をし新党に参加した議員。このため、看板を取り替えただけで実質的にはさほど新鮮味はない。

 これに反し、ダークホース的躍進を見せた「自衛」はある意味ではまさに新鮮な存在。政治活動自体は長いこと続けてきたが、現在までは農民過激政党のイメージから抜け切れず目だった成功を収めずにいた。、今回の選挙戦の間ですら主要政党や政治解説者から馬鹿されるほど軽んじられていた。しかし、今回の選挙で「自衛」は既存主要政党全てを批判し、国民の不満を煽りたてる手法で強烈にしかも効果的に有権者の関心を集め支持率を伸ばした。このため選挙戦最終週あたりから周囲の風向きが変わり始め、得票率が10%を超えると予測される現在、政界は一応一目を置き始めている。

 主要政治家の新鮮味は「自衛」比べたら薄いものの、LPRの議会入りも予想外のできごとである。この愛国主義、キリスト教的価値観を方針の柱としている政治グループは数ヶ月前に発足したばかりで、主要政治家の名前すら知られていないほど知名度が低かった(現在でも同党リーダー各政治家の知名度は低い)。この存在感の薄い党を下院へ送りこむ原動力となったのは「ラジオ・マリア」の存在である。このカトリック系のラジオ放送局である「ラジオ・マリア」がLPR支持に回ったことが成功の原因。選挙戦終盤に入りカトリック信者層の票を効果的に集め、議会入りの奇跡を果たした。


「自衛」、「ポーランドの家族連盟」現象は国民の不満の表れ

 国民の不満が爆発したとされる今回の議会選挙。その対象となったのは、ブゼク政権とEUである。この社会的鬱憤をうまく利用して票を伸ばしたのが「自衛」と「ポーランドの家族連盟」といわれている。

 家族にやさしい社会を作ることを公約に4年前に政権についたAWS(3年間はUWと連立)。この間国民の生活は楽になったどころか、逆に厳しさを増しつつある。諸改革不成功による社会的混乱、失業率の増加などにより生活の悪化を痛感していた国民であるが、昨今の財政赤字問題から生じた年金・社会保障増額停止議論や増税議論などにより、更に生活が悪化するという絶望に近い現実的不安が増大。財政赤字問題は脆弱化していたブゼク内閣にとどめを刺す形となった。

 ポーランドのEU加盟に対する不安は、EUという組織自体に対する不満ではなく、EUとの交渉を国民の合意無くして進めてきた自国政界全体に対する不満と見ることができる。

 先議会では左翼から右翼まで全政党がEU加盟賛成であったため、議会ではポーランドのEU加盟が当然の国家課題のように扱われていた。これにより、国民はEU加盟を支持しているかという根本的な議論がなされないまま、EU基準を満たすため法・行政的レベルにおいて様々な改革が急ピッチで推進された。このため、強引とも言えるこのような政界の方針に国民、特に農民は強い不満を抱き、この動きにブレーキをかけようとする社会動向が広がるとともに、既存政党批判が強まった。そして、今回の選挙でこの国民の批判が明確な形となって表れた。

 リベラリズム反対・EU加盟反対の市民層が次議会に「ポーランドの家族連盟」や「自衛」のような代弁者を送りこんだ事実は、ポーランド政界において今後受重要な意味を持ってくるはずである。


政治的対立関係の変化

 今回の選挙で更に明らかになったことは、政治的対立関係の変化である。体制転換後から現在まで続いてきた「旧共産党系政党VS右派・中道勢力」という構図は薄れつつある。もちろん、この両勢力間には未だに対抗意識や嫌悪感は存在する。しかし、特に今回の選挙に限っていえば、政策面の大筋においては共通点を多く含んでいる。

 これに対し新たな対立関係として発展しそうなのは「自由・EU・国家経済第一主義vs.保護・愛国・国民生活第一主義」という構図である。

 EUへの早期加盟、費用のかからない国家を目指している点においてSLD-UPとPOは間違えなく前者へ振り分けられる。SLD-UPは財政赤字削減のため大胆な行政・税制改革を望んでおり、国家を危機から救うためには、多少国民に負担をかけても荒治療もやむを得ずという立場。POは規制緩和や法の改善により中小企業の活動を活発化することを主眼に置いており、これにより社会的弱者を労働市場へ吸収するとしている。このため、社会的弱者への直積的支援は訴えていない。

 これに反し後者に分けられるのは、EU加盟反対(「自衛」は反対はしていないものの強く懐疑的)、社会的弱者の生活の保証を全面的に訴えているLPRと「自衛」である。また、反政界エリート、反既存政党という点でもこの2党は一致している。

 残り2党PiSとPSLは、UE加盟に関しては条件付で賛成。しかし、社会的弱者の立場を保護する態度を示している。いわば中間的立場か。


荒れそうな次期議会

 以上のように、ポーランド政界は新対立関係のなかで山積する難題に取り組まなければならない。とりわけ、当面の主課題となる財政赤字問題は国民の生活に直結するデリケートな問題だけに、次期議会では会期初めから激しい議論が飛び交いそうである。


 

(ぬくい ひろき 2001.09.26)


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