もっと知りたいポーランド語(6)

慣用表現は正確に記憶しないと...−

 

渡辺克義


 

記憶が曖昧な表現を使って恥をかいたことはありませんか? 以下は日本語の誤用例です。どこがおかしいかちょっと考えてください。

   

 1.「AO入試は、推薦より先に受験生に接する青田刈り入試だ」

 2.「このたび、課長の辞令を受けました。私には役不足ではありますが、全力を尽くす所存であります」

 3.「この音楽は耳ざわりがいい」

 4.「あいつは信用できない。まったく気がおけないよ」

 5.「前回失敗しているから、ここで汚名挽回といきたいね」

 6 「二日酔いで体調をこわしちゃってねえ」

 7.「あいつはいつも的を得たことを言うねえ」

 

 

 

1.は「青田買い」とするのが正解。稲の収穫高を見越して売買契約をすることが語源です。「青田刈り」とは、稲が実る前に刈ってしまうこと。2.は「力不足」との混同。「私には役不足」では「私の力量に応じないほどに役目が軽い」となり、まったく逆の意味になってしまいます。3.は「耳障(みみざわ)り」の「障り」を「手触り」や「歯触り」などの「触り」と誤解したもの。4.は「気がおけない」の解釈の誤り。「気がおけない」は「気楽につきあえる」という意味ですが、「信用できない」と解釈したもの。「気が許せない」から生じた誤解か? 5.は「汚名返上」と「名誉挽回」が一緒になった誤り。6.は「体調を崩す」と「体をこわす」の混同。7.は「的を射る」を「当を得た」と混同したもの。

 

こうした間違いはなにも日本人だけに見られるものではありません。ポーランド人にもよくあることです。次のポーランド語はどこか変です。問題点が正しく指摘できる人は、自分のポーランド語力に自惚れてもいいと思います。

 

 

 1.Czech walczył z Niemcami do ostatniej kropli tchu.

   「チェコ人はドイツ人に対して最後まで闘った」

 2.Mężczyzna ten miał barczystą twarz.

      「その男は横広がりの顔をしていた」

 3.Jacek Soplica umizgał się do ręki Ewy.

  「ヤツェク・ソプリツァはエヴァに言い寄った / 求婚した」

 4.Pani  zorganizowała  ekskursję do Pałacu Kultury i Nauki w Warszawie.

      「先生はワルシャワの文化宮殿への遠足を計画した」

 5.Jacek i Jurek mieli ze sobą na pniu.

      「ヤツェクとユレクは喧嘩した」

 6.Bohater, ratując dziecko, narażał się na życie.

      「そのヒーローは命がけで子供を救った」

 7.Domownicy upijali się do rozpuku.

  「家人はへべれけに酔っ払った」

 

 1. do ostatniego tchu「息ある限り」と do ostaniej kropli krwi「最後の血の一滴まで→最後の最後まで」を混同したもの。2.は szeroką とすべきところ。barczysty bark から派生した形容詞なので「肩幅がある」の意味でのみ用います。つまり、barczysty szeroki w ramionach ということ。3.は starać się o rękę「求婚する」とumizgać się do kogoś「言い寄る」を混同したもの。4.は慣用句というよりは同義語に関するもの。ekuskursja, majowka, włęczęga, wycieczka, wyprawa などは広義で同義語です。しかし実際には微妙にニュアンスが異なり、使い分けに注意を要します。ekskursja はラテン語から入った語(英語では excursion)で、ポーランド語ではいかにも古めかしい語で、「(十字軍などの)遠征」といった響き。4.のようなコンテクストで ekskursja を用いるとすればウケをねらったジョークとしかとられないでしょう。5.はmieć ze sobą na pieńku「喧嘩する」とsprzedać na pniu「青田刈りする;即売する」を混同したもの。6.は narazić się na śmierć narazić życie を混同したもの.生命を危険にさらす点では共通していますが。7.は upić się do nieprzytomności「前後不覚になるまで飲む」と śmiać się do rozpuku「抱腹絶倒する」を混同したもの。

 

 さて、皆さんは何問できました? それにしても慣用表現は怖いですね。ゾッとするほどです。鳥肌が立ちましたか? そういえば、「鳥肌が立つ」も最近は「感動した」の意味で使うようです。「SMAPのコンサートに行って鳥肌が立ちました」のように。言葉は時とともに変わるものですが、それにしても...

 

参考文献:

池上彰『日本語の「大疑問」』(講談社,2000

佐竹秀雄『サタケさんの日本語教室』(角川書店,2000

Maria Nagajowa, Ćwiczenia słownikowo-frazeologiczne w klasach V-VIII, Warszawa 1975.

 

(日ポ協会関西センター『WISLA』第27号 2002630日発行)