もっと知りたいポーランド語(5)
−複数の複数は複数だ!? −
渡辺克義
拙著『中・東欧のことばをはじめましょう ポーランド語 CD入り』(朝日出版社、2000)でポーランド語を学習しているある読者の方から、Polecam „Bitelsów” 「ビートルズがお勧めです」(31頁) の表記について質問を受けたことがあります。今回はこの問題を考えてみましょう。
Bitelsi とは、先日亡くなったジョージ・ハリスンもメンバーであった「ビートルズ」(1970年解散) のことです。 „BITELSI” なる見出し語は手許の百科辞典(Encyklopedia popularna PWN、 wyd. 22
zmienione i uzupełnione、 Warszawa 1992)にはありません。„BEATLES、 THE” ならあります(72頁)。実は Bitelsi とは、ポーランド人がこのグループを指す時の最も標準的な言い方なのです(佐藤信(まこと)作の戯曲「あたしのビートルズ」を、ポーランドの著名なジャパノロジストは „Moi Bitelsi” と訳しています [Moi Bitelsi. Wybór dramatów japońskich、 przeł. H. Lipszyc、 Warszawa 1998])。ポーランド語にははっきりとした長母音がない(母音の長短の違いが意味の峻別に機能しない)ので、Bea- がBi- となっても差し支えないのです。ポーランド語では -tel- と、e が入りますが、どうしてでしょうか? これは単に口調の問題でしょう。*Bitlsi だと、子音の連続を嫌わないポーランド語でも多少発音しづらく、また美しく響かないのでしょう。問題は Bitelsi の最後の子音です。
次の例を見てください。bambus − bambusy(竹)、 drops − dropsy (ドロップ)、 Eskimos − Eskimosi (エスキモー人)、 fotos − fotosy (スチール写真)、 Hindus − Hindusi (インド人;ヒンズー教徒)、 keks − keksy (ビスケット)、 kiks − kiksy (キック)、 klips − klipsy (クリップ;イヤリング)、 komiks − komiksy (漫画)、 skunks − skunksy (スカンク)、 slums − slumsy (スラム街)、 Zulus − Zulusi (ズールー人)。これらは英語から入ってきた外来語ですが、注意して見ると英語で複数形になっているものがポーランド語では単数形として用いられていることに気付きます。それらを複数形で用いる場合、ポーランド語ではさらに(ポーランド語での規則に従い)複数形にして用いているのです。つまり、Zulu(英語で「ズールー人」の単数形)→ Zulus(英語で「ズールー人」の複数形、ポーランド語では「ズールー人」の単数形)→ Zulusi(ポーランド語で「ズールー人」の複数形)というプロセスです。
なぜ、こんなことが起こるのでしょうか? 元の言語で、ある語彙が単数形で用いるより複数形で用いる頻度が高いとします。それがポーランド語に取り入れられると、複数が単数扱いとなってしまうのでしょう(もちろん、こういった現象は稀なケースです)。ポーランド語の語彙として複数形で用いるためには、既に見たように、改めてポーランド語のルールに従って複数形が導かれます。ここには一つのメリットがあります。元の言語で単数形が –i や –u などの母音で終わっている語があるとすると、ポーランド語の格変化(単数、複数共)に適応させにくいことがおわかりいただけるでしょう。こうなると、ポーランド語としては極めて少数派になる不変化名詞として扱わなければなりません。ところが、それが –sで終わると、男性名詞単数の扱いとすることができ、ポーランド語の格変化の体系に応用できるというわけです。
(日ポ協会関西センター『WISLA』第26号 2002年1月1日発行)