対ポーランド経済戦略再構築への一考察

 

 

 

田 口 雅 弘

Masahiro TAGUCHI

岡山大学経済学部

(Faculty of Economics, Okayama University)

700-8530 岡山市津島中3-1-1

taguchi@cc.okayama-u.ac.jp

COPYRIGHT 2003 by Masahiro TAGUCHI

May 20, 2003. Warsaw / Tokyo

 

 

はじめに

 

 本稿の目的は,日本とポーランドの経済関係を戦略的に強化する方策を明らかにし,両国の有機的相互依存関係を深化させることである。ここで「戦略的」というのは,日本が対EU政策を展開する上で,日本の姿勢により深い理解を示そうとする地域に積極的に働きかけるとともに,これらの地域との経済関係を相互の利益を増進させる方向に強化することにより,量的・質的相互依存を深めるということである。

 

 世界経済に占めるポーランドの比重はきわめて小さい。また,日本の総貿易額に占めるポーランドのシェアは0.1%にも満たない。しかし,ポーランドとの経済関係を拡大することは,日本にとって戦略的意味を持つ。1990年代初頭に冷戦体制は劇的に崩壊したが,その後もその構造的枠組みは残されたままであった。しかし,イラク戦争をきっかけに,これまでの構造に変化が生じた。米国は,国際秩序構築の理念が異なる欧州に対し不快感を示す一方,巧妙に中東欧諸国を巻き込んで自らの戦略を確固たるものにしようとしている。こうした動きの中でポーランドの動向は,EUの拡大と深化に大きな波紋を投げかけている。またポーランド自身,現在の世界秩序再編の模索プロセスを,自らのプレゼンスを強化するチャンスとして積極的に利用しようともくろんでいる。こうした動きを世界秩序再構築と呼ぶのは早計だろう。しかし,国際政治・経済の領域に新しい力学が生まれてきていることは確実であり,日本がこうした動きに主体的に関与しようとする場合,ポーランドを中心とした「新しいヨーロッパ」との戦略的関係構築は重要な意味を持つであろう[1]

 

 以下では,ポーランド政治・経済の現状を概括した上で,ポーランドとの有機的相互依存関係をどのように深化させることができるか考察したい。とりわけ,ポーランド外国投資公社(PAIZ)にかわる新しいポーランド投資基金立ち上げの必要性,日本の中小企業のポーランド進出支援の必要性,CO2排出削減事業における日ポ協力の可能性,IT産業における相互協力関係深化の可能性,相互理解を深める上での観光業振興の意義,通訳・翻訳ネットワーク形成の支援,学術交流の推進の必要性を論じる。

 

 

 

1.       ポーランド経済の現状

 表1に示されたように,ポーランドは1990年代後半に47%台の高いGDP成長率を達成している。しかし,2001年は1.0%,2002年は1.3%の成長と,成長率に減速傾向が見られる。1990年代中葉の景気を支えた消費が低迷していることに加え,1990年代後半に活発だった外国直接投資が減少したことも減速の大きな要因となっている。

 

成長鈍化の背景には,外資の関心を引く国営企業民営化案件は出尽くしており,残された案件は,エネルギー,鉄道,国防など,膨大な債務を抱え民営化に大きなリストラを伴う案件が中心になってきていることがあげられる。すでにGDPの約70%が民間部門によって生み出されており,民営化をテコとした成長戦略は見直しを迫られている。また,1990年代後半に外資系企業によって投資された生産施設が本格的に操業を開始し,輸出が次第に拡大してきているものの,相変わらず貿易収支は資本財輸入圧力におされて赤字基調となっており(2000年−△1316800万ドル,2001年−△1167500万ドル[2]),財政赤字も再び増加傾向にある。更に,対外債務も引き続き大きな負担となっている。インフレは収束したが,失業率は18%台と高止まりしており,当面著しく減少する兆しが見えない[3]

 

 

表1 ポーランド経済主要マクロ指標

 

 

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

国内総生産(1)

107.0

106.0

106.8

104.8

104.1

104.0

101.0

101.3

鉱工業生産(1)

109.7

108.3

111.5

103.5

103.6

106.7

100.3

101.5

農業生産(1)

110.7

100.7

99.8

105.9

94.8

94.4

105.8

 

消費(1)

103.3

107.2

106.1

104.2

104.4

102.5

101.7

102.9

投資(1)

117.1

119.2

122.2

115.3

105.9

101.4

90.5

92.7

輸入(1)

120.5

128.0

122.0

114.6

104.4

110.8

103.2

103.2

輸出(1)

116.7

109.7

113.7

109.4

102.0

125.3

111.8

109.0

対外債務(百万ドル)

43957

40558

38496

59165

64890

68198

63561

 

外貨準備高(百万ドル)

14963

18033

20670

28275

27314

27466

26564

26565

上場企業数(2)(件)

53

66

96

117

119

225

230

 

WIG(3)

7586

14343

14668

12796

18084

17848

13922

14367

民営化された国営企業数(4)

501

385

288

284

302

253

157

 

就業者数(千人)

14735

15021

15439

15800

15373

15018

14924

 

失業者数(5) (千人)

2629

2360

1826

1831

2350

2703

3115

3217

失業率(%)

14.9

13.6

10.3

10.4

13.1

15.1

17.4

18.1

インフレ率(6) (%)

26.8

19.4

14.8

11.6

7.4

10.4

5.5

1.9

ストライキ件数

42

21

35

37

920

44

11

 

スト参加者数(千人)

18

44

14

17

27

8

1

 

財政赤字の対GDP(%)

2.6

2.5

1.2

2.4

2.0

2.2

4.5

5.2

政府債務残高の対GDP(%)

56.2

54.0

47.3

43.3

44.4

39.4

40.3

 

 

(注)(1)固定価格ベース。前年=100

      (2) ワルシャワ証券取引所(GPWW)上場企業数。

      (3) ワルシャワ証券取引所指数(各年年末時点)。

      (4) 民営化プロセスにある企業も含む。

      (5) 登録失業者数(各年年末時点)。

   (6)インフレ率は消費者物価指数(CPI)で表示。対前年比。

 

出所Rocznik Statystyczny. Warszawa: GUS, 1989-2001年版,および中央統計局速報をもとに筆者作成。

 

 

 しかしながら,EU加盟が確実となったことで,再び対外直接投資の増加が見込まれている。全般的なトレンドとして,先進諸国の新興市場直接投資は,中南米に代わって中国を中心としたアジア地域と中東欧地域に集まりつつある[4]。その中で,アキ・コミュノテール(EUの法・価値体系)の基準をクリアした中東欧は,労働力コスト面で中国に劣るものの,会計・法制度の整備,投資インフラの充実,政治・社会の安定性を考慮に入れたトータルコストでは,十分対抗できる諸条件を整えつつある。図1が示すとおり,中東欧の中では,とりわけポーランドに直接投資が集中しており,ポーランドが中東欧直接投資流入額全体の3分の1を占めている(図2参照)。その額は,図3のとおり,2000年をピークに7年連続で50億ドルを超えており,またEU加盟が確実となってからは,駆け込み投資の増加が見込まれている。また,体制転換以降の対外直接投資(ストック)は,2002年末で6511500万ドルに達している(図4参照)。

 

 ポーランドの産業構造は,「個々の企業の近代化の結果を総合した産業構造としてみた時,資本財産業の弱体化,部品産業の未発達,付加価値比率の低下,慢性的貿易赤字といった問題を内包」しているといわれる[5]。しかしながら,外資系企業が定着してきたことにより,次第にこうした脆弱性も改善されつつある。たとえば,以前は日系の自動車工場が部品を調達する場合,ほどんど「EU域内の」現地調達であったが,最近では現地中小企業の製品の品質や生産管理が向上してきており,部品を供給している現地企業が増えつつある[6]。こうした変化は,中・長期的に見て上にあげた成長を抑制する構造の改善に寄与するであろう。

 

 

図1 対中東欧諸国対外直接投資 (ストック 2001年末まで 100USドル)

 


(出所) World Investment Report 2002, UNCTAD.

 

 

図2 中東欧諸国への対外直接投資 (フロー 2000年 %)


(出所) World Investment Report 2002, UNCTAD.

 

 

図3 ポーランドへの対外直接投資(フロー)

100USドル)

 


出所)Państwowa Agencja Inwestycji Zagranicznych, April, 2003.

 

 

図4 ポーランドへの対外直接投資(ストック)

100USドル)

 


(出所)Państwowa Agencja Inwestycji Zagranicznych, April, 2003.

 

 

図5は,経済均衡を表した図である。これは,主要経済バランスを領域の広さで表したものである。線で囲まれた領域が広がるほど,経済は安定しているといえる。この図から読み取れることは,現在成長は頭打ちになっているものの,全般的な経済バランスは比較的安定していて,経済は回復傾向にあるということである。

 

また200351日より,ポーランドの国債がシティグループ世界国債インデックスに組み込まれた[7]。このことは,金融面でもポーランド経済の信頼性が高まったことを意味する。しかしながら,U(失業率)の高さが実体経済と景気に悪影響を与えているといえる。景気回復と雇用の拡大が重要な課題である。

 

 ポーランドの経済成長鈍化を受けて,政府も対策に乗り出してきている。20035月には,コウォトコ副首相兼財務大臣が「共和国財政再建プログラム(Program Naprawy Finansów Rzeczypospolitej)」案を発表した(図6参照)。しかし,経済政策をめぐっては,コウォトコ副首相とハウスネル経済・労働・社会政策相が政府内で対立している。

 

ハウスネル経済・労働・社会政策相は,現状を打開するためには企業活動の活性化,景気回復,雇用の拡大が最重要課題で,これらの課題達成のためには減税による景気刺激策をテコとしてGDP5%成長を達成しなければいけないと考えている。同相によれば,財政改革は景気回復を達成した後に行えばよいということである。

 

 

図5 安定化のペンタゴン

 


 

 

解説

実線−2002年第2四半期,点線−2002年第4四半期,破線−2003年第2四半期予測

 PKB−国内総生産(GDP)成長率,U−失業率,CPI−消費者物価指数,G−財政赤字対GDP比,CA−経常収支対GDP

a−実体経済,b−スタグフレーション,c−インフレーション,d−財政均衡,e−対外経済

 

 

2002

2003

2四半期

3四半期

4四半期

1四半期

2四半期

PKB

0.8

1.6

2.1

2.2

2.6

CPI*

2.1

1.3

0.9

0.5

0.7

U

17.4

17.6

18.1

18.7

18.0

G

-5.1

-5.2

-5.1

-4.9

-4.6

CA

-3.6

-3.6

-3.6

-3.4

-3.3

 

* 対数表示。

 

出所’Tendencje rozwojowe gospodarki Polskiej’. Ministerstwo Finansów, May, 2003, pdf file, p.15, http://www.mf.gov.pl/_files_/aktualnoci/tendencje_rozwojowe_gospodarki_polskiej.pdf Access:2003.05.22 10:50

 

 

これに対し,コウォトコ副首相の「プログラム」は,全く違ったアプローチをとっている。外資の流入を促し,速い経済成長を維持するには,EU加盟に引き続いて速やかにユーロを導入することが重要である。したがって,大胆な財政改革を通じてマクロ経済の安定化を図ることが何よりも重要であると考える。そして,2006年にマーストリヒト条約の諸基準をクリアし,2007年のユーロ導入を目指す。具体的には,税制・年金の見直し,日本の特殊法人に相当する様々な政府外郭団体の廃止,特別減税の廃止などにより歳出を抑制する。大幅な減税は予定しない。なぜならば,すでにこれまで減税による景気刺激は行ってきており,コウォトコ副首相によれば,これ以上の減税による景気浮揚効果は期待できないと考えるからである。こうした財政改革と並行して,インフラ整備,産業リストラ,特定領域の振興(IT分野の規制緩和,観光業の促進)等を推進していくが,財政負担はPFIを活用することによって軽減していくとしている[8]。また,対外債務の支払いは,ポーランド国立銀行の再評価積立金も活用したいと考えている[9]

 

20035月時点で,「共和国財政再建プログラム」は国会で審議中である。ミレル首相はコウォトコ案を支持しているが,このプログラムに対する国民の人気はない。その理由は,このプログラムの内容は国民が痛みを分け合ってユーロ導入まで頑張ろうというものであり,国民が活力と夢を持って取り組めるものではないからである。そして多くの専門家は,これが国民の活力を十分に引き出せるプログラムになっていないにもかかわらず,成長率が強気の指標になっているところに疑問を持っている[10]。このプログラムが国会を通過しなければ,それはミレル政権の基盤を揺るがすことになるが,たとえばハウスネルを首班とする路線に切り替えて政権の安定化を図ることも選択肢としてあり得るだろう[11]

 

 

 

図6 「共和国財政再建プログラム」()に基づく国内総生産成長率の予測

 


(解説) コウォトコ副首相によると,体制転換期は次のように区分される: 1990-1993年「ショックな『療法』期」(バルツェロヴィチ・プランに基づくショック療法が展開され転換リセッションが起こった時期),1994-1997年「ポーランドのための戦略期」(コウォトコ副首相が構造改革に取り組み高度成長を達成した時期),1998-2001年「景気冷却期」(「連帯」政権が四大改革に取り組んだ時期),2002-共和国財政再建プログラム期」(再びコウォトコ副首相が登場した時期)。別表1「ポーランド政治・経済年表(1989-2002)」も参照。

 

出所’Program Naprawy Finansów Rzeczypospolitej’(Projekt). Ministerstwo Finansów, May, 2003, pdf file, http://www.mf.gov.pl/_files_/aktualnoci/gwkwyniki/pnfr.pdf Access:2003.05.23 10:00.

 

 

 

2.       新しいポーランド投資基金立ち上げの必要性

 

これまで見てきたように,ポーランドへの対外直接投資はめざましい増加を示しているものの,2002年までの日本からの対外直接投資は,ストック・ベースでハンガリーへの直接投資額の約2分の1,チェッコ共和国への直接投資額の約3分の1にとどまる。また,ポーランドへの対外直接投資総額(ストック・ベース)に占める日本の比重はわずか0.54%にすぎない[12]。在ポーランド大使館は,進出日本企業の直面する問題点として,日本企業進出の際のポーランド政府の約束した事項が履行されなかったり法制度が変更したりする点をあげている[13]。同様の指摘は,JETROの調査でも明らかになっている[14]。しかし,ハンガリー,チェッコ共和国もそれぞれ制度的不安定要因を抱えており,上記の理由がポーランドへの対外直接投資が少ない決定的理由にはならない。

 

今回の調査で,日本からの対外直接投資を阻害する2点の根本的な問題が浮かび上がった。それは次の点である:

1.対ポーランド直接投資の案件をサポートする機関が機能していない。

2.ポーランドに関する情報が決定的に不足している。

 

現在ポーランド投資公社は企業進出支援機関として十分に機能していない。しかし,それでも欧米企業からの対外直接投資が大きく伸びているのは,欧米企業の場合コンサルタント会社を使って現地法人設立等の手続きをしている例が多いからである。この方法は公的機関を通じて手続きを行うことが多い日本企業にはあまりなじまない。体制転換が一段落し,西側先進諸国や国際機関からの金融支援が先細りする中,ポーランド議会では,ポーランド投資公社の再編について議論がされた。しかし結局は,ポーランド投資公社の強化は見送られた。「ポーランド投資公社が機能していなくても十分対外直接投資が入ってきており,国家財政が苦しい中であえてポーランド投資公社に追加投資する理由がない」(パブウォヴィチ前ポーランド外国投資公社総裁[15])からである。また,ポーランド通信社(PAI[16])との合併が計画されたが,合併する場合には,法的には土地・建物の資産を持っているものの実質的にあまり活動していないポーランド通信社が,ポーランド投資公社を吸収する形となり,ポーランド投資公社がこれを嫌った経緯がある。

 

ポーランド投資公社が十分機能できない理由は,その組織構造にも求めることができる。すなわちポーランド投資公社の独立性がきわめて限定的であるという点である。公社の監督省庁は経済・労働・社会政策省であるが,対外直接投資案件ではこの経済・労働・社会政策省が許認可権を持っており,投資誘致事業においてはある意味で省と公社が競争関係にある。したがって,経済・労働・社会政策省としてはポーランド投資公社の権限拡大には消極的になってしまうわけである。結果的に,「ポーランドへの対外直接投資は行政的諸問題がボトルネックとなっている」(米政府)と批判されても,改革は全く進まないのである。このほか,体制転換が一段落し1998年からPHAREの財政支援がなくなり資金不足に陥っている,政権内ではポーランド投資公社縮小論が優勢である,ポーランド投資公社総裁が一種の名誉職になっていて実務家が座っていないなどの問題も上げられる。

 

つぎに,日本からの対外直接投資を阻害する主要な要因として,ポーランドに関する情報が決定的に不足していることをあげることができる。ハンガリー,チェッコ共和国は日本に投資公社の事務所を開設しており,また両国の現地の投資公社にはJICAが専門スタッフを派遣している[17]。ポーランドはいずれの点でも実績がない。日本の企業,とりわけ独自の市場リサーチを行うスタッフと資金を持っていない中小企業にとって,日本国内に現地投資情報を提供する窓口があり,かつ現地には立ち上げをサポートしてくれる日本人スタッフがいることは大変心強い。こうした体制が整っていることにより,日本語でかなりの程度の投資環境についての情報を入手できるだけでなく,現地での事業立ち上げを行政手続きの面からも支援してもらえる。

 

それでは,こうした状況をカバーする制度の構築は可能だろうか。まず,直接投資をサポートするコンサルタント会社であるが,これはポーランドに数多く存在する。しかし,ポーランドになじみがない日系企業には,こうした会社を十分に活用するノウハウが整っていない。多額のコンサルタント料を取られた上に理想とするパートナーにたどり着けないことも十分予想される。一方で,地方自治体は外資系企業誘致に積極的で,中央との交渉や面倒な書類作成をすべて一括して引き受けるという自治体も少なくない[18]。しかし,地方自治体に日本との連絡を専門に担当する職員や,日本語はもとより英語で十分に対応できる職員が不足していることは否めない。わずかな手がかりは,東京三菱銀行の現地法人が融資先の顧客にとどまらず広くポーランド投資について相談にのってくれること[19]JETROがホームページでPAIZ情報の日本語版を一部公開していること[20],などである。

 

このように情報が少なく,手続きの複雑さが進出の大きな障害になっている現状では,早急に新たなポーランド投資支援組織をビジネス・ベースで立ち上げるのが現実的である。このことによって,ポーランド投資は日本企業にとってより容易となり,経済関係の強化が望めると考える。具体的には,例えば日本側とポーランド側から総研,地域企業振興公社,コンサルタント会社,経済・経営系大学(例えばワルシャワ大学経済学部,ワルシャワ経済大学日本経営研究センター,科学研究国家委員会)などが参加し基金(Fundusz)を設立し,現地地方自治体と連携しながら,日本語によるポーランドの投資情報の提供,日本における事務所の開設,視察・ミッションのサポート,現地での行政手続きの代行等の業務を行うことができれば,両国の経済関係は更に発展するであろう。ポーランド側では,日本語で対応できるスタッフを含めてこうした組織を立ち上げる準備ができているが,日本側がこうした基金に関心も持つかどうかという問題と,誰が立ち上げ資金を提供するのかという問題は残る。

 

 

 

3.       中小企業進出支援

 

中小企業救済・育成はポーランド経済・社会にとって緊急の振興策が求められる分野である[21]。また,日本においても中小企業のてこ入れは緊急の課題である。この両者を結びつけることは現実的に十分可能であるが,上記のポーランド投資基金を立ち上げることが前提となる。

 

ポーランドでは,伝統的に協同組合が活発に経済活動をおこなっており,特に農村の生産・消費活動,都市部の生活にとって欠かせない存在であった。また,農業は社会主義体制下でも70%以上が個人農であり,都市の私的小規模経営も1970年代から比較的広く認められていた。1980年代には「ポローニア企業」とよばれるポーランド系外国人による外資系企業も活発に活動していた。1980年代後半には,すでにGDPの15%近くを私営の中小企業が生み出していたと推定される。

 

1990年代後半は,運輸,金融,保険,法律,不動産,倉庫業,観光など,社会主義時代に欠落していた主にサービス部門が大きく発展しており,この分野での投資も活発になった。米国,イタリア,ドイツなどの外資の進出により,自動車部品産業,電気機械産業,食品加工産業,木材・パルプ産業,家具製造業への投資が増大した。

 

 しかし今後は,国内消費の低迷とEU加盟による外資の進出で,約3分の1の中小企業が存亡の危機に立たされると推測される(全国商工会−KIG調査)。中小企業振興は,ポーランドにとって経済再生,地域振興と地域格差是正,失業率引き下げ,社会安定化の視点から重要な課題である。

 

 一方,日本でも中小企業振興は緊急の課題である。景気が低迷する中で,中小企業の体力はますます弱ってきており,工場を海外に移転する余力も衰えつつある。一方で,大企業のリストラは一段落し,不良債権最終処理の矛先は中小企業に向かいつつある。政府は,中小企業再生への金融支援案を練っているが,不良債権処理への圧力の方が強いのが現状である。他方,親企業は国内工場を閉鎖し,「世界最適生産」型を目指して,生産を海外にシフトする動きを強めている[22]。日本の中小企業の活力を引き出すためにも,市場競争力のある中小企業の海外進出はむしろ積極的に支援していくことが求められる。

 

 日本からポーランドへの直接投資は,上にも述べたようにハンガリーやチェッコ共和国にはるかに及ばない。世界の対ポーランド直接投資が中東欧投資の約3分の1を占める中で,日本からの投資が伸びない理由は,上記の通り,ポーランド外国投資公社のような公的機関を通じて投資を行おうとする日本企業の行動にポーランド側が対応できる組織を持っていなかったこと,またそのため日本においてポーランド情報が決定的に不足していたことがあげられる。

 

 それでは,投資環境を見た場合,ポーランドはハンガリー,チェッコ共和国と比較してどのような優位性があるのだろうか。各国の統計を見ると,各国により統計の方法が異なるため、必ずしも実態を反映したものにならない。こうした中でJETROでは、できるだけ実態を反映した調査を行うべく進出日系企業に実際の賃金のヒアリング調査を行っている。そこでここでは,各国の公式統計ではなくJETROの調査データを利用したい。

 

 図5は製造業の平均賃金実態調査に基づく3カ国の比較である。この図から,一般職工においては,ポーランドの賃金は最低クラスで3カ国中最も低いこと,また平均でもチェッコ共和国より低いことがわかる。また,中堅技術者ではハンガリーの半分以下の賃金である。また,中間管理職においては,他の諸国と比較して圧倒的に安い。また,この表には現れていないが,ハンガリーやチェコでは,現地で事業を立ち上げる場合,労働力調達がネックとなっており,とりわけ管理部門マネージャー・クラスの人材が不足しているが,ポーランドでは質の良い中間管理職がまだまだ買い手市場になっている[23]。次に,社会保障負担を見てみると,これもポーランドの雇用者負担が圧倒的に安い(図6参照)。更にポーランドの投資環境の特徴として,賃金上昇率,インフレ率がともに3カ国の中で一番低くなっている(図7,8参照)。一方で,図9に示されたとおり,ポーランドの失業率は高く,雇用者側としては豊富な人材を確保することができる。

 

 こうした状況は,日本ではあまり認識されていない。理由は情報不足ということにつきるだろう。基金を立ち上げ,ポーランドの投資環境情報,中小企業情報を日本語で広く公表すれば,新しい投資の掘り起こしが可能になると考える。

 

 また,イギリスの日系中小企業が大手日系企業の欧州大陸シフトに伴い,大陸への移転を検討している[24]。イギリスとの摩擦も政治的に考慮する必要があるだろうが,こうした企業への後押しを政策的に進めていくことも,ポーランドとの戦略的経済関係強化にとって有効であろう。

 

 

図5 JETRO投資コスト関連比較調査(製造業の平均賃金実態調査)

(月給,ドル)


(注1)現地採用者の平均的な月額(諸手当含む)を税引き前のグロス。20031月時点。レートは2003117日のインターバンクレートを使用。

(注2)各国発表の賃金比較表では,いずれの諸国も自国に有利な数字を発表している。本稿でJETROの資料を使用したのは,それがより客観性を維持していると思われるからである。

(出所)JETRO投資コスト関連費各調査(ポーランド,チェッコ共和国は進出日系企業のヒアリング調査,ハンガリーは在ハンガリードイツ商工会議所)資料[25]。グラフは筆者が加工。

 

 

 

 

図6 社会保障負担率

 


(出所)JETRO投資コスト関連費各調査。グラフは筆者が加工。

 

 

図7 実質賃金上昇率

 


(出所)JETRO投資コスト関連費各調査(各国統計局発表)より抜粋。グラフは筆者が加工。

 

 

図8 消費者物価上昇率

 


(出所)JETRO投資コスト関連費各調査(各国統計局発表),ウィーン比較経済研究所資料。グラフは筆者が加工。ハンガリーの数字については筆者が独自に修正。

 

 

図9 失業率

 


(出所)JETRO(各国統計局発表)。グラフは筆者が加工。

 

 

 

4.            排出権取引[26]

 

排出権取引でポーランドと協力関係を深めることは,日本の環境政策にとって効果的である。排出権取引は,基本的に民間ベースで行われているが,政府や地方自治体の広報活動や支援活動は,こうした事業の促進にとって重要である。

 

表2は,京都議定書の必要条件が満たされ、発効されるとの前提で定められた主要各国(附属書I国)における1999/2000年の基準年に対するCO2排出量変化と,議定書で定められた排出削減目標値との差異を表している。つまり,各国が排出権枠を実質的にどの程度持っているかを示している。(A)は京都メカニズムに定められた基準年の二酸化炭素排出量で,削減を計算するベースとなる。(C)は京都議定書附属文書Bに定められた排出削減義務を係数化したもので,例えば日本は0.94となっているが,これは6%の削減を義務づけられていることを意味する。(D)は,基準年の排出年の排出量にこの削減義務の係数(C)をかけたもので,排出量義務レベルを示している。この(D)から19992000年に実際に排出している(B)を差し引くと,この時点における排出義務の収支が算出できる。マイナスになっている諸国は,その量を削減する義務を負っており,プラスの諸国はその量を売却等することができる。表が示すとおり,日本は171940Ggのマイナス,ポーランドは146464Ggのプラスであり,ポーランドは日本の有力なパートナーになりうる。

 

ポーランドの場合,社会主義時代から自国で産出される褐炭を使った熱電併用プラント(CHP)が発電,暖房の中心になっており,また排ガス規制も緩やかで効率的エネルギー利用にはほど遠かった。近年,エネルギー政策の転換によりクリーンで効率的なエネルギー利用への転換が図られているが,まだまだ改善の余地が多く残されている。逆に言えば,わずかな投資で大幅なCO2削減が期待できる国でもある。一方日本は,目標達成まで171940Gg削減する義務がある。ポーランドにおいて「共同実施(JI)」を積極的に推進することは,日本にとっても利益が大きい。

 

現在,日本・ポーランド政府間ベースでは京都議定書実施協力協定が未だ発効しておらず、ポーランドの地方自治体レベルでは,この「京都メカニズム」について一部を除きほとんど認識がない。裏返していえば,排出権取引等の交渉が手つかずのままである。民間レベルで取引を進めるにしても,行政サイドでサポートする体制を早急に確立することが必要と考える。とりわけ,20045月のポーランドEU加盟までに集中的に活動することが重要であると考える。

 

 

表2 主要各国における1999*/2000年の基準年に対するCO2排出量変化と議定書で定められた排出削減目標値との差異

 

 

 

基準年におけるCO2排出量

単位Gg

 

 

 

(A)

1999*/2000年におけるCO2排出量

単位Gg

 

 

 

(B)

議定書附帯文書 Bに定められた排出削減義務係数

 

 

(C)

基準年のCO2排出量を基にした排出削減義務レベル

<A ×C>

単位Gg

 

(D)

1999*/2000年におけるCO2排出量の排出削減目標値との差異

<DB>

(単位:Gg

(E)

米国*

4846000

5585000

0.93

4506780

-1078220

日本*

1049000

1158000

0.94

986060

-171940

カナダ*

421000

489000

0.94

395740

-93260

スペイン*

212000

272000

0.92

195040

-76960

イタリア*

397000

421000

0.92

365240

-55760

オーストラリア**

260000

322000

1.08

280800

-41200

フランス*

364000

361000

0.92

334880

-26120

ポルトガル*

40000

61000

0.92

36800

-24200

オランダ*

156000

167000

0.92

143520

-23480

ベルギー*

106000

119000

0.92

97520

-21480

ギリシャ*

69000

82000

0.92

63480

-18520

アイルランド*

32000

40000

0.92

29440

-10560

フィンランド

53000

58000

0.92

48760

-9240

イギリス*

572000

535000

0.92

526240

-8760

ノルウェー*

28000

37000

1.01

28280

-8720

オーストリア

57000

61000

0.92

52440

-8560

ニュージーランド*

23000

31000

1.00

23000

-8000

デンマーク

50000

53000

0.92

46000

-7000

スウェーデン*

49000

48000

0.92

45080

-2920

スイス

41000

40000

0.92

37720

-2280

ルクセンブルグ

10000

7000

0.92

9200

2200

ハンガリー*

68000

58000

0.94

63920

5920

スロバキア*

55000

39000

0.92

50600

11600

チェッコ共和国

150000

111000

0.92

138000

27000

ドイツ*

967000

822000

0.92

889640

67640

ポーランド **

477584

302465

0.94

448929

146464

ウクライナ

704 841

262 823

1

704 841

442018

ロシア*

2351000

1486000

1.00

2351000

865000

合計

129338

合計(米国を除く)

948882

 

(注)** − 基準年は1988年,排出量は2000年。

(出所)Yoshiho Umeda.(梅田芳穂). ‘Jakie korzyści płyną dla Polski z wdrożenia mechanizmów Protokołu z Kioto.’(「京都議定書メカニズムの導入はポーランドにどのような利益をもたらすか?」), 2003, mimeo, p.4.

 

 

 

5.       IT産業

 

 日本では,デフレ不況下で5%を超える高失業率時代にもかかわらず,IT関連の技術者不足に直面する大企業が少なくとも4社中1社に上ることがアンケート結果から明らかになっている[27]。この共同通信社のアンケートによると「大企業でのIT人材不足は,中小企業では問題が更に深刻なことを示唆している。政府のe-Japan戦略で世界最先端のIT国家を目指す日本にとって,優秀なIT人材の育成は産業構造改革と国際競争力回復を目指す上でも喫緊の課題」であり,「各企業が必要とするIT技術者数は,「1万人以上」が5社,「9999-1000人」が17社,「999-500人」が10社,「499-100人」が41社」となっていた。また,「適正な人員数を確保」している企業は135社中65社(48%)にすぎないとの結果が出ている。政府の「IT人材育成戦略」については「国際競争を考えればまだ足りない。一段と力を入れる必要がある」と回答した企業が86社(64%)に上っている。

 

 一方ポーランドは,IT分野で質の高いシステム・エンジニア(SE)を豊富に有している。また,市場調査会社のIDC(米国)は,20022003年の世界のIT支出動向予測を発表しているが,その中で2003年に特に高い成長率が期待されるのは,中国,インド,韓国,ロシア,フィリピン,南アフリカ,ポーランドだとしている。

 

 しかしながら,日ポ間においてITに関わる人材の需給がすぐに成り立つわけではない。ポーランドは,汎用性の高い分野でのシステムの設計・構築・保守を英語でコミュニケーションを取りながら遂行できるSEは数多く供給できるが,ユビキタス・コンピューティングやシステムのセキュリティなど,これからますます重要になりつつある最先端分野での技術開発や人材育成では十分な供給力を持たない。

 

 一方,ポーランドのIT市場に目を向けると,自由化は進展しているものの,そのスピードは十分といえず,特に旧国営のポーランド・テレコム(TPSA)の独占排除・リストラの遅れが足かせとなっている。また,日本が得意な携帯電話などのコンテンツ分野においては,プロバイダがコンテンツ・サービスも囲い込んでいるためにコンテンツ産業の発展が阻害されているといわれる[28]

 

 したがって,ポーランドとの戦略的関係を強化するためには,ポーランドのSE活用を展望した人材育成支援を検討することが必要であろう。たとえば,ポーランド日本情報工科大学のエンジニア育成は定評がある[29]。大型コンピュータによるデータ処理やハード構築を得意とするワルシャワ工科大学,コンピュータ・サイエンスの伝統を持つワルシャワ大学に対し,ポーランド日本情報工科大学では業務系エンジニアの育成,ソフト・エンジニアリングに力を入れている。論文作成はグループ単位で行われ,これはSEに求められる集団作業のトレーニングも兼ねている。各学年1520名は45年次に日本語を学んでいる。こうした研究・人材養成機関との協力関係を更に強化し,日本でのインターンシップの制度化や共同プロジェクトを立ち上げていけば,ポーランドが日本にとっての安定的なSE供給市場として育つ可能性があるだろう。

 

 

 

6.       相互理解の深化

 

 今回の調査で多くの専門家,企業の方々から指摘されたのは,日本においてポーランドに関する情報が決定的に欠落しており,そのことが相互関係の発展・深化の潜在力を引き出せないでいるということであった。その潜在力を引き出す仕組みは,観光業のてこ入れ, 通訳・翻訳ネットワーク形成の支援,学術交流の推進などである。

 

 ポーランドの2001年の旅行目的地別旅行者入国数は1500万人で,フランス,スペイン,米国,イタリア,中国,イギリス,ロシア,メキシコ,カナダ,オーストリア,ドイツ,ハンガリーに次いで13位である[30]。ポーランドは観光大国といえる。しかし,同年の日本からポーランドへの旅行者数はビジネスも含めて25,000人足らずである[31]。日本からポーランドへの観光者が増えない理由は,ウィーン,プラハ,ブダペストを巡るコースから外れる,これらの都市に比較しポーランドの都市は地味である,などの理由もあるが,日本にポーランド観光局の事務所がない[32],直行便の乗り入れがない,ポーランドに日本の航空会社,旅行代理店の事務所がない,などの理由も大きい。ポーランド観光機関(Polska Organizacja Turystyczna: POT[33])が駐日ポーランド大使館内に事務所を開設することを検討していると伝えられるが[34],まだ具体的な目処は立っていない。ポーランドは,ワルシャワ歴史地区,クラクフ歴史地区,ザモシチ,トルン,ビエリチカ(塩坑),アイシュヴィッツ,マルボルク,ビャウォヴィエジェ,カルバリア・ゼブジドフスカといった豊かな世界遺産を持っており,また工芸や宝飾品に使われる琥珀の産地としても有名である[35]。日本人にとっても魅力のある観光地といえよう。最近では,ジャルパック,ANAハローツアー,JTB,日本旅行,近畿日本ツーリスト,阪急交通社,ユーラシア旅行社などがポーランドのツアーを組んでおり,徐々にではあるがポーランドが観光市場として開拓されつつある。POT日本事務所の開設,日本の航空会社または旅行代理店のポーランド事務所の開設をサポートすることは,こうした動きを加速する上で重要である。

 

 ポーランドとのビジネス,人的交流の促進を図る上で,通訳・翻訳ネットワークの形成は不可欠である。もちろん,通訳・翻訳業界には,過去の歴史の中で形成された業界の秩序が存在し,行政が介入してあえてそれを崩す必要はない。しかし,日ポ政治・経済関係強化の視点から見ると,優秀で豊富な人材が効率的に活用されておらず,各個人の知識・経験の蓄積が全く共有の財産となっていない。

 

ポーランドでは通訳の各種国家試験を実施しているが,日本人では通訳ガイドの試験に合格して現役で活躍している人がわずか1名,オシフェンチム国立アウシュヴィッツ=ビルケナウ博物館公認ガイド試験に合格してガイドを務めるものが1名いるのみである。一方,ポーランド人も含めた日本語通訳・ガイド(試験合格者)は全国で21名に過ぎない[36]。また,日本語を専門とするポーランド人通訳・翻訳家は数十名いるが,特にビジネスの分野で人材が不足しており,また通訳同士の横の連携も希薄で,お互いの経験の蓄積が共有されていない。たとえば,上にあげた中小企業進出のサポートを行う場合,日本語スタッフによる支援は不可欠である。

 

現状を改善する試みとして,ビジネス分野ではJETROワルシャワ事務所が20035月より,日本語を学んでおり日本とのビジネスに関心のある学生・ビジネスマンを集めた勉強会を月1回のペースで始め,現在約30名の登録がある。一方,日本側でも,ポーランド語通訳の情報交換やスキルアップを図る場を組織することが重要である。また,ポーランド語研究の国際的組織であるブリストル(Bristol)では,国際的なポーランド語検定の実施を準備しているが,こうした検定や国家試験への取り組みをサポートすることは,長期的に日ポ経済関係をより深化させ円滑にする上で不可欠と考える。あわせて,通訳・翻訳の経験を蓄積するデータベースの立ち上げ,辞書の充実など,民間ベースではなかなか取り組めない分野をサポートすることが望まれる。

 

 ポーランドに対する理解,ポーランド人の日本に対する理解は,これまでほとんど文化・芸術交流を通して行われてきた。この成果はきわめて大きく,両国の信頼を築く柱となっている。この分野は,相互理解の深化,人的交流の活性化,国民レベルにおける相互のポジティブなイメージ作りに大きく貢献しており,引き続き支援を継続していくことが必要である。文化・芸術交流と並んで,学術交流の果たす役割も大きい。とりわけ自然科学分野の交流を活性化することは,産官学連携によるポーランドの基礎研究の商業ベースでの応用,経済協力分野の掘り起こし,技術提携の促進などに貢献するであろう。また,社会科学分野での交流活性化は,学術レベルでの交流にとどまらず,ポーランド国家の諸機関との人的交流,ポーランド政府との情報交換などに貢献するものと考える。なぜなら,体制転換の十年を振り返って,歴代首相,副首相,蔵相,国立銀行総裁,国会議員など,社会科学系の研究者が政府の重要なポストを占めるケースがきわめて多いからである。今後もこの傾向は続くと思われる。

 

 

 

まとめにかえて

 

 この報告では,日本の対ポーランド投資の中心を占める自動車産業や自動車関連産業,機械産業,電機産業には言及しなかった。これらの直接投資はいうまでもなく日本とポーランドの経済関係を直接左右する規模と現地経済への浸透度を持っている。しかしながら,これらの産業は自立的で,今回調査した限りでは,直接日本政府が介入する必要性は見いだせなかった。あえていえば,経済特別指定地区(SSE)に関してポーランド側が約束した事項を履行するようトップレベルでプッシュすることであろう。

 

 本稿で取り上げたのは,今後自立的に投資が伸びるだろう分野ではなく,今後の戦略的経済関係強化の視点から,一定の政策的サポートが必要と思われる分野に限定した。短い調査期間であったため,十分に状況が把握できなかった点や,実情に即しない提案が含まれているかもしれない。各分野の専門家や最前線で活躍する企業の方々のご指摘をいただければ幸いである。

 


別表1 ポーランド政治・経済年表(1989-2003)

 

 

選 挙

政 府

政 治

経 済

 

1989

6.4,18  総選挙の自由選挙枠で「連帯」圧勝

 

 

 

8.24 マゾヴィエツキが首相に任命

 

 

 

 

 

11.9   ベルリンの壁崩壊

12.29 憲法改正。社会主義体制関連条項削除。国名変更。

 

 

 

9.12 L・バルツェロヴィチ,副首相兼大蔵大臣に

10.    バルツェロヴィチ・プラン発表

9.12 戦後初の非共産党政権誕生

 

 

T・マゾヴィエツキ内閣(中道連合)   1989.9.12-1990.12.14

(無所属(「連帯」系)

1990

 

 

 

 

 

12.9 大統領選でL・ワレサが大統領に

 

 

4.13 ソ連,「カティンの森事件」を正式に謝罪

10.3  両ドイツ統一

11.14  ポ独国境を確認する条約に調印

1.1 バルツェロヴィチ・プラン実施

1991

 

 

 

10.27 国会選挙で中道勝利。小党乱立

2.23 コメコン解散調印

 

7.1 ワルシャワ条約機構解体(2.25 調印)

    

12.21 ソ連解体

 

 

7.2 ワルシャワ証券取引所正式開設

12.16  ECとの連合協定に調印

J・ビエレツキ内閣

(中道連合)   1991.1.12-1991.12.5 

  自由民主会議

J・オルシェフスキ内閣(中道右派連合)   1991.12.6-1992.6.5    

中道連合

1992

 

10.28  ポーランド駐留旧ソ連軍撤退完了

 

 

12.21  中欧自由貿易協定(CEFTA)調印

 

H・スホツカ内閣

(中道連合)      1992.7.11-1993.5.25   

民主同盟

1993

 

 

 

9.19 国会選挙で民主左派連合第1党に

1.25  ポ独軍事協定調印

 

 

 

 

 

11.1 欧州連合条約(マーストリヒト条約)発効

 

3.1  中欧自由貿易協定(CEFTA)発効

 

 

 

 

 

11.15 ポ・EFTA自由貿易協定発効

 

 

 

 

W・パブラク内閣

(左翼・農民党連合)1993.10.26-1995.3.4   

ポーランド農民党

1994

 

1.10 「平和のためのパートナーシップ」発足

 

 

 

7.5 ポ・NATO間で個別の「平和のためのパートナーシップ」調印

 

 

 

4.28 G・コウォトコ,副首相兼大蔵大臣に

6.23-24 「ポーランドのための戦略」可決

 

1995

 

 

11.19 大統領選でA・クファシニェフスキ勝利

 

7.1 WTO加盟

 

12.16 EU首脳会議で,ポーランドのEU加盟交渉準備を決定

J・オレクシ内閣

(左翼・農民党連合)1995.3.4-1996.1.26

民主左翼連合

1996

 

 

 

 

 

11.22 OECD加盟

 

 

W・チモシェヴィチ内閣(左翼・農民党連合)1996.2.7-1997.10.31

民主左翼連合

 

 

 

1997

 

 

 

 

 

 

9.21 国会選挙で「連帯」選挙行動第1党に

4.2  国会,新憲法草案を可決

5.27   NATO・ロシア間で「基本議定書」調印

7.8  NATO首脳会議,ポーランドの新規加盟で合意

 

 

 

6. EU首脳会議で,ポーランドをEU加盟候補国と決定

 

 

10.31 L・バルツェロヴィチ,副首相兼大蔵大臣に

 

 

 

J・ブゼック内閣

(中道・右派連合)             1997.10.31- 2001.10.19

「連帯」選挙行動

 

 

 

 

 

6.6 自由同盟,連立政権を離脱。政府は「連帯」選挙行動の少数与党政権に

 

 

1998

 

 

 

 

EU加盟交渉開始。

1999

 

ハンガリー,チェコと共に,NATO正式加盟。

 

2000

 

 

10.8 大統領選でA・クファシニェフスキ再選

 

4.12 為替のクローリング・ペッグ制を廃止して完全自由化

6.8 自由同盟の連合政権離脱に伴いL・バルツェロヴィチ,副首相兼大蔵大臣辞任

2001

 

9.23 国会選挙で民主左翼連合約半数の議席獲得

 

 

 

 

 

 

L・ミレル内閣

(左翼・農民党連合)

2001.10.19-

民主左翼連合

 

 

3.1 ポーランド農民党,連立政権を離脱。

2002

 

 

 

7.6 ベルカ蔵相辞任を受けてGコウォトコ,蔵相に就任

 

2003

 

 

 

6.7-8 EU加盟を問う国民投票

 

 

4.16 EU加盟条約に調印

 

(出所)筆者作成。

 

 



この研究は,日ポ経済関係強化に関する研究・調査の成果の一部である。筆者は2003326日〜45日の間ワルシャワ(ポーランド)を訪問し,主にインタビューを通じで調査を行った。この場を借りて,年度末の忙しい時期にもかかわらず多くの時間を割いてインタビューに応じてくれた日系企業,専門家,ポーランド諸機関の方々に心からお礼を申し上げたい。なお,本稿は事前に上記の方々に配布して内容の確認を行っているが,すべての記述については筆者が責任を負うものである。

[1] ポーランドは,国内人口3800万人に対し,海外にポローニアと呼ばれるポーランド系移民を1000万人以上擁している。特に米国との歴史的つながりは強い。1991年の湾岸戦争におけるCIA要員の救出,2001年のアフガニスタンでのGROM(対テロ特殊部隊)派遣,2003年のイラク戦争における200名規模の部隊派遣など,軍事面でも米国の堅い信頼を得ている。更に最近では,ポーランド軍がロッキード社のF16戦闘機48機を35億ドルで購入,その見返りに米企業がポーランドに60億ドル規模の投資をすることが決まっている。加えて,イラク安定化軍では,米,英などと並んでポーランドが部隊を派遣し,イラク分割地域の統治に参加する。また,ポーランドの経済・労働・社会政策省には、約600社の企業(ポーランド企業及びポーランドに現地法人を持つ外資系企業)から戦後のイラク復興投資の希望が寄せられている。

一方,欧州においても着実に地位を固めつつあり,EU東方拡大後の欧州理事会やEU議会においてスペインに匹敵する発言権を確保している(2001226日に調印されたニース条約において定められた,拡大EUにおける欧州理事会の票数配分は,ドイツ−29,スペイン−27,ポーランド−27,チェッコ共和国−12,ハンガリー−12。また,EU議会における議席数は,ドイツ−99,スペイン−50,ポーランド−50,チェッコ共和国−20,ハンガリー−20)。加えて,ポーランドは歴史的・領土的にリトアニア,ウクライナ,ベラルーシなどの東部国境を接する諸国と関係が深く,また民主左翼連合はロシアに旧共産党ルートのパイプを維持しており,こうしたアドバンテージを活用してEUの東方政策にも積極的な役割を果たそうという姿勢を見せている。

このように,ポーランドは従来の枠を越えた諸地域の新しい関係を構築するプロセスにおいて,重要な役割を果たしうる国家といえるだろう。

[2] Rocznik Statystyczny. Warszawa: GUS, 2002年版p.483.

[3]