田 口 雅 弘
Masahiro TAGUCHI
岡山大学経済学部
(Faculty of Economics,
〒700-8530 岡山市津島中3-1-1
taguchi@cc.okayama-u.ac.jp
COPYRIGHT 2003 by Masahiro TAGUCHI
May 20, 2003. Warsaw / Tokyo
はじめに
本稿の目的は,日本とポーランドの経済関係を戦略的に強化する方策を明らかにし,両国の有機的相互依存関係を深化させることである。ここで「戦略的」というのは,日本が対EU政策を展開する上で,日本の姿勢により深い理解を示そうとする地域に積極的に働きかけるとともに,これらの地域との経済関係を相互の利益を増進させる方向に強化することにより,量的・質的相互依存を深めるということである。
世界経済に占めるポーランドの比重はきわめて小さい。また,日本の総貿易額に占めるポーランドのシェアは0.1%にも満たない。しかし,ポーランドとの経済関係を拡大することは,日本にとって戦略的意味を持つ。1990年代初頭に冷戦体制は劇的に崩壊したが,その後もその構造的枠組みは残されたままであった。しかし,イラク戦争をきっかけに,これまでの構造に変化が生じた。米国は,国際秩序構築の理念が異なる欧州に対し不快感を示す一方,巧妙に中東欧諸国を巻き込んで自らの戦略を確固たるものにしようとしている。こうした動きの中でポーランドの動向は,EUの拡大と深化に大きな波紋を投げかけている。またポーランド自身,現在の世界秩序再編の模索プロセスを,自らのプレゼンスを強化するチャンスとして積極的に利用しようともくろんでいる。こうした動きを世界秩序再構築と呼ぶのは早計だろう。しかし,国際政治・経済の領域に新しい力学が生まれてきていることは確実であり,日本がこうした動きに主体的に関与しようとする場合,ポーランドを中心とした「新しいヨーロッパ」との戦略的関係構築は重要な意味を持つであろう[1]。
以下では,ポーランド政治・経済の現状を概括した上で,ポーランドとの有機的相互依存関係をどのように深化させることができるか考察したい。とりわけ,ポーランド外国投資公社(PAIZ)にかわる新しいポーランド投資基金立ち上げの必要性,日本の中小企業のポーランド進出支援の必要性,CO2排出削減事業における日ポ協力の可能性,IT産業における相互協力関係深化の可能性,相互理解を深める上での観光業振興の意義,通訳・翻訳ネットワーク形成の支援,学術交流の推進の必要性を論じる。
1.
ポーランド経済の現状
表1に示されたように,ポーランドは1990年代後半に4〜7%台の高いGDP成長率を達成している。しかし,2001年は1.0%,2002年は1.3%の成長と,成長率に減速傾向が見られる。1990年代中葉の景気を支えた消費が低迷していることに加え,1990年代後半に活発だった外国直接投資が減少したことも減速の大きな要因となっている。
成長鈍化の背景には,外資の関心を引く国営企業民営化案件は出尽くしており,残された案件は,エネルギー,鉄道,国防など,膨大な債務を抱え民営化に大きなリストラを伴う案件が中心になってきていることがあげられる。すでにGDPの約70%が民間部門によって生み出されており,民営化をテコとした成長戦略は見直しを迫られている。また,1990年代後半に外資系企業によって投資された生産施設が本格的に操業を開始し,輸出が次第に拡大してきているものの,相変わらず貿易収支は資本財輸入圧力におされて赤字基調となっており(2000年−△131億6800万ドル,2001年−△116億7500万ドル[2]),財政赤字も再び増加傾向にある。更に,対外債務も引き続き大きな負担となっている。インフレは収束したが,失業率は18%台と高止まりしており,当面著しく減少する兆しが見えない[3]。
表1 ポーランド経済主要マクロ指標
|
|
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
2002 |
|
国内総生産(1) |
107.0 |
106.0 |
106.8 |
104.8 |
104.1 |
104.0 |
101.0 |
101.3 |
|
鉱工業生産(1) |
109.7 |
108.3 |
111.5 |
103.5 |
103.6 |
106.7 |
100.3 |
101.5 |
|
農業生産(1) |
110.7 |
100.7 |
99.8 |
105.9 |
94.8 |
94.4 |
105.8 |
|
|
消費(1) |
103.3 |
107.2 |
106.1 |
104.2 |
104.4 |
102.5 |
101.7 |
102.9 |
|
投資(1) |
117.1 |
119.2 |
122.2 |
115.3 |
105.9 |
101.4 |
90.5 |
92.7 |
|
輸入(1) |
120.5 |
128.0 |
122.0 |
114.6 |
104.4 |
110.8 |
103.2 |
103.2 |
|
輸出(1) |
116.7 |
109.7 |
113.7 |
109.4 |
102.0 |
125.3 |
111.8 |
109.0 |
|
対外債務(百万ドル) |
43957 |
40558 |
38496 |
59165 |
64890 |
68198 |
63561 |
|
|
外貨準備高(百万ドル) |
14963 |
18033 |
20670 |
28275 |
27314 |
27466 |
26564 |
26565 |
|
上場企業数(2)(件) |
53 |
66 |
96 |
117 |
119 |
225 |
230 |
|
|
WIG(3) |
7586 |
14343 |
14668 |
12796 |
18084 |
17848 |
13922 |
14367 |
|
民営化された国営企業数(4) |
501 |
385 |
288 |
284 |
302 |
253 |
157 |
|
|
就業者数(千人) |
14735 |
15021 |
15439 |
15800 |
15373 |
15018 |
14924 |
|
|
失業者数(5) (千人) |
2629 |
2360 |
1826 |
1831 |
2350 |
2703 |
3115 |
3217 |
|
失業率(%) |
14.9 |
13.6 |
10.3 |
10.4 |
13.1 |
15.1 |
17.4 |
18.1 |
|
インフレ率(6) (%) |
26.8 |
19.4 |
14.8 |
11.6 |
7.4 |
10.4 |
5.5 |
1.9 |
|
ストライキ件数 |
42 |
21 |
35 |
37 |
920 |
44 |
11 |
|
|
スト参加者数(千人) |
18 |
44 |
14 |
17 |
27 |
8 |
1 |
|
|
財政赤字の対GDP比(%) |
2.6 |
2.5 |
1.2 |
2.4 |
2.0 |
2.2 |
4.5 |
5.2 |
|
政府債務残高の対GDP比(%) |