レポート:ポーランド政界の動向
抜井宏樹(E-mail:
hirokinukui@poczta.onet.pl
)
COPYRIGHT by Nukui, Hiroki 2003
政界の力関係
=== 主要政党 ===
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民主左派連合(SLD)
左派政党。旧体制系の流れを汲む。現在はUPと連立与党を組み政権担当。2001年秋、ミレル首相率いるSLD−UP―PSL政権発足時には国民の大きな期待・絶大な支持を集めた。その後は内政面の失敗や相次ぐ政治スキャンダルにより、国民のミレル離れは徐々に進行。今年春には瀕死状態に陥る。6月のEU加盟国民投票以後、ミレル首相はやや勢力を盛り返した。しかし、昨今の2004年予算案問題では、ミレル首相が社会保障の削減・企業や自営業者に有利なフラットタクス導入などリベラルな政策を推進していることで、党内では首相支持派と社会民主主義イデオロギー重視派との対立が顕著化。SLDは危機状態に陥っている。党内クーデターが近いうちに起きると報じるメディアもあり、情勢は非常に不安定だ。2005年に予定されている次期議会選挙では大敗退し、最悪の場合国政から姿を消すという予測すらある。
主要政治家
アレクサンデル・クファシニエフスキ
:大統領。国民に絶大な人気で2選を果たす。任期切れとなる2005年以降の動向が注目されている。旧体制系政治家だが、最近では中道新政党を旗揚げするという噂がある一方で、NATOなど国際機関の要職就任説も浮上している。
レシェク・ミレル
:首相。SLD唯一の求心力。ミレルが失脚すれば党が解体する恐れがあるともいわれる。外交舞台での華々しい成功とは裏腹に、内政では多くの未解決問題が山積し、国民の不満増大するばかり。自党内からの突き上げも激しさを増しており、窮地に立たされている。クファシニエフスキ大統領との確執も有名。
ユゼフ・オレクシ
:同党マゾイヴィエツキエ県代表・元首相。野党政治家からも尊敬されている「聖職者」タイプの重鎮。下院EU委員会も率いる。言動は冷静かつ理性的。ときには党の厳しい内部批判も。ミレル退陣後の次期首相への声も上がっている。
マレク・ボロフスキ
:下院議長・元財務相。混乱が多い今期国会運営で精力を使い果たしている様子で、党の覇権争いには消極的。党利より職責を重視している。
ヴウォジミエシュ・チモシェヴィチ
:外相、元首相。批判を浴びることが非常に少ない堅実なタイプ。外相として国内外で評価されている。オレクシ同様、党内では次期首相候補と見る動きがある。
イェジ・ハウスネル
:副首相兼経済・労働相。経済学教授。党内における支持基盤はない。首相の絶大な信頼を受け、いまでは閣内で多大な影響力を持つ。労組・雇用者団体との関係も比較的良く、対話を重視する。教壇(特に学生との対話)をこよなく愛し、多忙な現在も定期的に講義を行っている。
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労働同盟(UP)
ポスト連体系左派政党。連立与党の一角を成るすが、実質的にはSLD内の派閥的な存在となっている。ポル党首が副首相とインフラストラクチャー大臣を兼任しているが、国道利用料金制度導入やバイオ石油に関する法案実現にことごとく失敗し無能ぶりを露呈。同時に党の存在感も消滅しかかっている。独自性を強調しようと、一時期からSLDに対し批判的な態度を取り始めている。政府2004年予算案に関しても、社会保障削減に反対という立場から、部分的賛成というスタンス。存続が危ぶまれてる。
主要政治家
マレク・ポル
:UP党首、副首相兼インフラ相、元産業貿易相。国道利用有料化法案やバイオ燃料法案の失敗、高速道拡張計画の不備など失策を繰り返す。党首としても指導力に欠け、独自性を欠く。
トマシュ・ナウエンチュ
:下院副議長。下院リヴィンスキャンダル捜査委員会長としての活躍が注目を浴びており、同党の次期党首になるという憶測がなされている。
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ポーランド農民党(PSL)
農民政党。2003年3月に、SLD−UPとの与党連立解消以来、徐々に存在感を弱める。特にEU加盟議論では農地売却や補助金問題で農民の利益を保護する役割を果たした。しかし、国民投票後は存在意義を失っている。2001年議会選挙の結果、SLD−UPと連立政権樹立を決定したカリノフスキ党首に対し議員が猛反発した経緯があるように、内部派閥の対立が恒常化している。最近では、支持層を農村から小・中都市市民や自営業者にも拡大する方針を打ち出している。地方では影響力を持ち、村/町・市議会では強さを見せている。
主要政治家
ヤロスワフ・カリノフスキ
:党首、元農業相。最近では、支持率低下の責任をとるべきとして、党幹部から退陣要求を突き付けられた。その後、自ら信任投票に付し党首の座に止まっている。新支持層獲得のため党改革を目指す。
ヤヌシュ・ヴォイチェホフスキ
:下院副議長。NIK(最高監査極)局長時代には、公正な活動振りが高く評価された。次期党首候補といわれているが、この大政党を統率するにはやや器量不足か。
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市民プラットフォーム(PO)
ポスト連帯系の流れを汲む右派政党。ビジネス界が支持基盤。2000年大統領選挙で無所属で立候補し、当時右派与党陣営が擁立したクシャクレフスキを抑え、クファシニエフスキ大統領に次ぐ2位を座を確保したオレホフスキが創設の中心人物。これに、当時UWの若手の要トゥスクと、AWSのプワジンスキが共同発起人として補佐。右派勢力の寄せ集めであった当時AWS内閣が内政改革に失敗し国民の支持を急激に失うなか、右派の新たな受け皿として大きな期待を集めた。しかし、オレホフスキの単独行動(正式党員になったのはごく最近。2002年の地方選挙でワルシャワ市長に立候補したが、POとは別の個人後援組織を活動基盤とした)をとったり、党内部の覇権争い(元ワルシャワ市長・ピスコルスキ、コモロフスキ前国防相、ロキタ前SKL党首などの大物議員を抱える)が原因で、求心力が欠如。また2003年6月のEU国民投票直前に、右寄りのプワジンスキ党首が辞任・離党しリーダーを次々に失う。最終的にリベラルのトゥスクが新党首となったことで、ようやく党政策の方向性が安定してきた感がある。しかし、リベラリズムを嫌う傾向が強い社会において、幅広く国民の支持を集められるかは疑問。
主要政治家
ドナルド・トゥスク
:PO党首、下院副議長。同党発起人「御三家」の一人。このうち、残りの2名が方向転換した(プワジンスキは離党、単独行動を平行して行っていたオレホフスキは渋々党員となったが議員ではなく存在がいまいち曖昧)ことで、党首となったが、リーダーシップに欠ける。元は中道政党のリーダー。協力関係にありながらも最近右傾が強いPiSとの連携にも手を焼いている。
ヤン・ロキタ
:PO議員クラブ長、下院リヴィンスキャンダル捜査委員、元閣議局長。右派政党を転々とした(人民民主党元党首)が最終的にPOに落ち着く。昨年の地方議会選挙ではクラコフ市長に立候補したが落選。政治生命も終わりと見られていた。しかし、下院リヴィンスキャンダル捜査委員として明晰な頭脳の持ち主であることを証明し、人気急上昇。特に、左派陣営の腐敗構造に全面対決を挑む姿勢が市民の好感と信頼感を勝ち取った。最近、同党の議員クラブ長にも就任し、政治的にも完全カムバックを果たした。ただ、独特の「クセ」があるだけに、大集団のリーダーには向かない。
パヴェウ・ピスコルスキ
:元ワルシャワ市長。若手のホープ。将来はリベラル勢力のリーダーとなることが予想される。しかし、このところ目立った活動はない。
ジタ・ギロフスカ
:PO幹部。経済学教授。女性。国会の経済・税制議論の際には同党代表として演壇に立つ。テレビにもよく出演し、トゥスク、ロキタと並びPOの顔となっている。
アンジェイ・オレホフスキ
:PO政策担当。財務相・外相経験。同党発起の張本人だが、動向がはっきりしない。昨年のワルシャワ地方選挙による敗退で、政界引退を宣言した。POには党員として残ったものの、(国会でも地方でも)議員ではなく、存在が不明瞭。政策担当というポストも名誉職に近い。
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法と正義 (PiS)
ポスト連帯系の流れを汲む。カチンスキ兄弟(双子:レフ・カチンスキは現職ワルシャワ市長、ヤロスワフ・カチンスキは党首)が率いる右派保守政党。2001年議会選挙前に活発化した右派陣営政界再編の結果誕生した若い党。統一感はあるが、同兄弟以外には、それほど目立った政治家はいない。保守色が強すぎるのが欠点か。EU問題に関しては、自国主権の維持、宗教・社会生活が西欧文化に侵食されないことなど、条件付きで同意する「EU現実派」を自ら称する。地味ではあるが堅実な政党。地方議会選挙において首都ワルシャワ市民ですらリベラルのオレホフスキには目を向けず、カチンスキを圧倒的な支持で市長に選んだことからも、一般市民の価値観に一番近い政策を提示しているように思える。
主要政治家
レフ・カチンスキ
:ワルシャワ市長。双子の兄・ヤロスワフと共にワレサ元大統領の側近だったが、その後喧嘩別れをしている。AWS前政権では法務相。刑罰強化を強く主張し、国民の支持を集めた。ワルシャワ市長としては、財政倹約を実施。また、SLD―PO前ワルシャワ市政権が残した「腐敗構造」壊滅にも乗り出している。
ヤロスワフ・カチンスキ
:PiS党首。双子の弟・レフの影に隠れがちで、あまり話題の的にはならない。しかし今後もしばらく、兄弟でポーランド政界右派陣営のキーパーソンとなることは確実。
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「自衛」SAMOOBRONA
農民過激政党。農民団体として発足したのは1992年だが、主要政党として国政に登場したのは2001年議会選挙以後の新興勢力。アンジェイ・レッペル代表の独裁的党運営が特徴(その独裁振りにより、一時ヒトラーに喩えられた)。体制転換以来ポーランドを食い物にしているとして、政界の全エリート層(SLDを中心とした旧体制系の流れを汲む左派諸政党、ポスト連帯系の右派諸政党とPSL)を厳しく批判。生活に不満を募らせる一般市民のフラストレーションを巧みに利用して急成長した。しかし最近、レッペル代表の独裁に痺れを切らせた同党下院議員の離党が後を絶たない。地方議会でも支持を集めている。EU問題に対するスタンスは、加盟反対から国益が侵害されないという条件で加盟賛成と変更している。同党の絶頂期は過ぎた感があるが、レッペル代表が次に何を仕掛けるのか油断できない。
主要政治家
アンジェイ・レッペル
:党代表。独裁者的存在で同党唯一の求心力で、正に「自衛」=レッペル。代表の意見に逆らうものは即刻除名扱いするなど、非民主的統率方法が党員の不満につながり、最近では議員の流出が相次いでいる。これに多少懲りたのか、最近ではメディアを用いたお得意のパフォーマンスも控えている。
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ポーランドの家族連盟(LPR)
右翼政党。2001年議会選挙直前に発足し、急激に市民の支持を集め突如として政界に出現したカトリック・愛国系政党。SAMOOBRONA同様、既存エリート勢力を徹底批判(ただ、PiSとは比較的相性が良い)。筋金入りの反EU勢力。国営企業民営化議論では、外資参入を徹底して拒否する。EU加盟に絡んだ農地問題でも、「大地」=「祖国」という哲学から、外国人に対する土地売却には断固反対という立場を示した。根強い支持層を持つ一方で、思想が偏りすぎていることが仇になり、これ以上の大躍進は困難。
主要政治家
ロマン・ギェルティフ
:LPR副党首。職業は弁護士。熱心なカトリック信者。その勤勉さには他党議員も一目を置く。反EU陣営の筆頭でもある。今後は加盟反対から、EU内における国益保護に攻撃目標を移す。言動があまりにも愛国主義的あるいはイデオロギー的で滑稽に映ることも珍しくない。長身のインテリ。同じ新興勢力でも、ずんぐりむっくりで「土臭さ」が強いレッペル代表とは好対照。
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自由同盟(UW)
ポスト連帯系中道政党。バルツエロヴィチ、マゾヴィエツキ、ゲレメクなど、体制転換直後の若いポーランド民主主義を支えた政治家を抱えながらも、2001年議会選挙では1議席も獲得できないという大敗北を喫した。PO結成のため若手リーダー各のトゥスクとその腰巻きが脱退した頃から凋落が顕著となる。現在は、フラシニュク党首のもと、インテリ政党イメージからの脱却を図り、とくに若年有権者に照準を合わせている。近頃徐々に支持率も回復し、世論調査では安定して5%前後を記録。他の中道・右派勢力との合併も視野に入れている。ちなみに、マゾヴィエツキ元首相は、同党地方組織が2002年地方議会選挙の際SLDとの連立提携を交わしたことを不服として離党している。
主要政治家
ヴワディスワフ・フラシニュク
:党首。旧体制下では、「連帯」活動家として投獄された経験を持ち、現在でも左派陣営に対する強い嫌悪感を剥き出しにしている。マゾヴィエツキやゲレメクといった成熟したインテリ政治家のイメージを未だに引きずる同党の変革・世代交代はやはり困難なようで、具体的な新路線を提示できないでいる。
=== 政界の対立関係 ===
大戦転換以来現在まで厳然として存在するのが、
「旧体制系」と「ポスト連帯系」の対峙を示す対立軸1
だ。両者の確執は非常に強く、互いに「生理的嫌悪感」でも持っているかのように強く反発し合っている。特に、PiSとSLDの関係は悪い。一方で、POはEU問題や税制議論ではSLDに協力的姿勢を見せている。左派・右派という呼び方は、必ずしもその政治思想や政策を反映しているものではなく、歴史的軽経緯によるところが大きい。実際に、社会民主政党であるSLDはミレル首相のもと、社会保障削減やフラットタクス導入を主張するなど、同党内部から強い批判がなされるほどかなりリベラルな政策を打ち出している。POも最近リベラリズム傾向を強め、政策面ではSLDとに一番近い政党になりつつある。PiSは右傾の強い政党で、政策的には新興勢力極右のLPRに近い。PSLは非常に「日和見」的傾向が強い政党。今までに2度SLDとの連立を組んでいるが、いずれも途中で離脱している。最近では、PO、PiS、LPRなどと連携してミレル政権打倒を企むなど、右派勢力に接近している。
政界エリートと新興勢力の対峙を示す対立軸2
は、2001年地方議会選挙の結果出現した。それ以前は基本的に、政界には明確な対立軸1しか存在しなかった。両新興2政党は、政界エリートがおこなった体制転換後以来の政策を厳しく批判する立場をとっている。特に「SAMOOBRONA」のエリート批判は攻撃的で、体制転換後の高度経済成長の波に乗れず貧困状態に取り残された社会層を中心に絶大な支持を集めている。LPRは、支持母体にカトリック系ラジオ局「ラジオ・マリヤ」を持つことから容易に推察できるように、比較的高年齢の熱心な信者、年金生活者などの強い支持を受けている。興味深いのは、両党とも現在でさえ国家財政を圧迫している社会保障費の拡大を主張していること。このため、リベラリズムを根本否定する。
第3の対立軸はポーランドのEUに対するスタンス
。この対立が明確化したのも2001年議会選挙以降だ。選挙戦やその直後では、政界エリート陣営は親EU、新興勢力は反EUという対立構図だった。しかしその後、新規加盟国に対しEUが提示する条件が不利になるにつれて、PSLとPiSは、国益が今後も保護できるという条件でEU加盟賛成という立場に支持姿勢を変更した。一方、「自衛」は国民投票が近づくにつれ徐々に姿勢を軟化し、やはり条件付き賛成派に転身している。
国民投票の結果ポーランドのEU加盟が決定して以来、条件付き賛成・反対派は、EUという大組織内で自国主権の喪失を防ぐ、国民生活の急激な西欧化から保護する、西欧大企業進出による自国中小企業・個人商店破滅を防止する、キリスト教的価値感の保護など自国利益を守るというスタンスで同問題にあたっている。円卓会議の際に体制側に座していた人物を多く温存するSLDが、現在ではこれら諸勢力を説得し、精力的にEU内における地位向上を目指している事実は、歴史の皮肉としか言いようがない。
世界観を示す対立軸4
は普段はあまり表に現れない。宗教的中立を保つSLD(UPも同様)は、カトリック教会との関係を改善に成功している。また、クファシニエフスキ大統領やミレル首相はローマ法王と謁見しており(法王出身国の政界トップとして訪問せざるをえないという側面もあるようであるが)、教会勢力との良好な関係を強調している。しかし、SLD−UPは、妊娠中絶や同性愛者の婚姻の合法化などを政策に掲げている。この観点からはキリスト教的価値観を尊重する他政党と明確に一線を画す。
尚、以下の「主要政党の対立構図」において、現在下院に議席を確保している主要政党のみを示した。
政治の舞台における主要テーマ
2004年予算と2007年までの中期財政政策
目下(2003年10月下旬現在)最大の関心事。
ポーランドは2004年5月1日に欧州統合正式加盟国となる。この結果、拠出金や各基金の共同出資などのEU関連歳出が同年から急激に増大する。
一方で、一時は真剣に財政危機が懸念されたほどポーランド国家財政状態は悪い。国営不採算セクターの早期リストラや社会保障削減などによる歳出面の根本的な構造改革が叫ばれているが、いまだに手が付けられていない。
ミレル政権は国家財政の健全化を計りながらも、同時にEU資金の最大限活用(つまり共同負担額を最大限)と経済活性化を実現するという非常に野心的かつリスキーな方針を決定。
ここから、2004年予算では財政赤字額を今年の387億ズロチから455億ズロチへ大幅拡大し、その後2005年〜2007年に総額 320億ズロチの歳出削減を主旨とする財政緊縮プランを発表している。当然これは、財政赤字額をマーストリヒト条約基準内に収め2008年のユーロ導入を実現するための強行手段だ。
ハウスネル経済相は、2005年〜2007年間の歳出カット対象を、1)国家・地方行政リストラ、2)社会保障カット、3)炭坑など国営不採算セクターのリストラとしている。
1)実現は政府実行力にかかっているので、首相が指導力を発揮すれば容易にクリアーできる。一方、2)、3)は、国民から並みならぬ反発が待ち受けており、実現は困難を極める。
同政策に対する反応は。長年ポーランド財政を圧迫してきた社会保障カットにメスを入れる案として評価する見解から、赤字増加は金融危機へとつながるとする警鐘まで様々だ。批判は各方面で噴出している。 社会保障カットはまた、党イデオロギーに反するとしてSLD内部からも強い反発を招いる。2004年予算問題はミレル政権の寿命に直結する重要課題だ。
欧州連合憲法議論
現在憲法作製中の欧州連合では、各国の利害が交錯し議論が最高潮に達している。
長期に渡る作業の末憲法草案は出来上がっており、今月からローマで始まったEU長期会議で調整が行われる予定。
最大の争点は、欧州議会における採択方法変更とキリスト教明記の問題だ。ニース条約(2000年締結)に規定されている、各国議席配分はポーランドに有利であった。草案では、大国に有利なよう変更されている。ポーランドとスペインはニース条約を死守する構え。
第2点は、憲法前文に、欧州共通文化の源として「キリスト教」を明記するか否かという論争。憲法草案には明記されていないことか、ポーランドはこれを強く要求。
ポーランド国内で両争点は過剰なほどに重要視されている。特に右派系・農民系主要政党は、政府が両主張実現に失敗すれば、不信任決議案を持ち出す意気込みで圧力をかけている。
リヴィンスキャンダル
国内最大メディアと政界左派トップを巻き込んだ大スキャンダルで、真相究明のため下院捜査委員会が設けられ、公開証人喚問が行われている。
「シンドラーズリスト」や「戦場のピアニスト」などの作製を手がけた映画製作会社Heritage Filmの社長レフ・リヴィンが、ラジオ・テレビ法案の内容をアゴラ社(国内最大、「ヴィボルチャ」新聞発行元)の有利となるよう変更する代償として金銭を要求したことが事件の発端。
下院捜査委員会の活動により、マスメディア界で最大の影響力を持つ右派系のアゴラ社の更なる勢力拡大を嫌った左派系人物が、同社封じのために法案を改竄する働きかけをしてらしいことが徐々に解明されつつある。
最大の注目点であり、問題でもあるのは、同スキャンダルに政界トップが絡んでいる可能性があること。リヴィン容疑者自身も首相の使いでアゴラ社に向かった伝えている。クファシニエススキ大統領も同事件を知っていながらも、目をつぶっていたことが発覚しており、政界全体に対する市民の信頼度を大きく傷つける結果となった。
首相の事件関与はまだ明かではないが、国営テレビ局長や首相政策室長などが共同で裏工作を行っていた疑いが強まっている。
同スキャンダルはまた、ビジネス界と政界の境界線が無いに等しいこと、国会法案ですらビジネス界における覇権争いの手段となっていることを如実に露呈した。知識人はポーランド民主主義危機の警鐘を鳴らしている。
政界再編
体制転換からごく最近までの政界の動きを大雑把にまとめれば、SLD(民主左派連合)に集約された左派陣営諸勢力に対峙する、集合・解散を繰り返すポスト連帯系の中道・右派勢力。この両者、つまり政界エリート層全体に対抗する新興勢力という構図が見られる。
しかし、体制転換以降急ピッチで構築された現在の民主主義形式に対する強い閉塞間、またEU正式加盟が目前に迫っていることもあり、既存の対立軸を越えた抜本的な政界再編の気運が芽生えつつある。政局の変化は落ち着きをみせるどころか、これから本格化するような印象を受ける。
まず、2001年に政権を奪取した時には絶大な結束力・安定感を見せたSLD―UPであるが、今では内部批判の表面化を許すほどミレル首相の影響力は弱まっている。最近では、ミレル首相が独断で非常にリベラルな政策(フラットタクス導入など)を決定したことで、党内の左寄り派閥の強い反感を買っている。内政問題に対処しきれずミレル首相退陣となれば、SLDは求心力を失い分裂してもおかしくないという見解が広まっている。
また、クファシニエフスキ大統領がとっている最近の動向もSLDの行き先を暗くしている。2005年で任期切れとなった以後の身の振り方に関する憶測がすでに始まっているが、SLDとは母体を異にした、中道新政党を旗揚げするという説があがっている。
中道・右派陣営では、各党の動きは統一に向けて収束するというよりは、ある程度の規模を有した政党の併存と新小政党の出現という傾向が強まっているようだ。中・長期的観点で統一を志すと思われたPOとPiSの政策の違いは広がるばかりで、最近では2005年欧州議会選挙ではそれぞれ個別候補者を擁立する決定を下している。
2001年議会選挙で敗退したAWSPの流れを汲む諸党は、「中道・右派陣営で幅広い勢力の結集を目指す」というスローガンを掲げているが、主導権争いにより思うように交渉が進んでいない。、ソヴィンスカ元理財相(元AWS)やクロピヴニツキ・ウッジ市長(ZChN)が新党・新グループを結成している。また、SKLとRSはそれぞれ協力する方向で協議を進めている。
「自衛」、「ポーランドの家族連盟」といった新興勢力も安定感を欠いている。「自衛」では離脱議員が相次いでいる。2001年議会選挙直後、53議席下院で獲得したが、現在では31まで減少。離脱議員は、無所属となったか、独自政治グループを設立している。また、地方レベルでも、レッペル代表の独裁に反抗する党員の排除などが進んでおり、非常に不安定要素が大きい。「ポーランドの家族連盟」でも、内部で派閥争いがあり、下院議員数名が離党している。
保守農民党(PSL)でもやはり内部争いが絶えない。最近では、党幹部がカリノフスキ党首の退陣を要求したり、EU反対派・賛成派の対立などで、統一感を欠く。一部では、「自衛」や「ポーランドの家族連盟」との合流を考えている派閥があるといわれている。
このように各陣営で不安定要素が増大している中、今後の政界再編の方向性を占う目安とされているのが2005年に予定されているEU議会選挙だ。議会選挙とは異なり、選出するEU議員総数自体が少ないことから、一議席でも多く獲得するため各陣営はできるだけ勢力を拡大すると予想される。この際のグルーピングの傾向が今後の政界地図の青写真となるという味方がある。現段階では、SLD、PO、PiSはそれぞれ独自候補を擁立する意向を示している(POとPiSが提携しないことが注目されている)。さらに、クファシニエフスキ大統領が、SLDとは別行動をとり独自候補者を擁立するといわれている。そして、これらの人物を将来的に中道系の新政党を旗揚げするという内容の記事を見掛けることが多くなった。
ポーランドがEU正式加盟するが決定し、政界の対立軸が変化しつつあることは確かだ。実際、EU関連議論(税制改革議論でも)では、SLDとPOが協力的関係にある。また、EU加盟絶対反対であったLPRは今後、正式加盟後のポーランドの主権・国益保護を主張する勢力として活動を展開することを明らかにしており、こうなるとPiSとの距離が更に近くなる(2002年に行われた地方選挙で、一部の県でLPRがPiSに対提携の提案を行った例があるように、PiSの保守的な政策は、リベラルなPOの政策よりも、LPRのものに近い)。また、PSLや自衛といった農民政党も、比重を徐々に小都市の一般市民や中小企業経営者などに移しつつある。この傾向が続けば、両党内では、あくまで農村保護を訴える派閥と、党の生き残りを賭け都市部進出を狙う派閥が離散し、それぞれが党の枠を超えて合流するというシナリオもありうるのではないだろうか。
このように、中・長期的には、現在の「旧体制系」VS「ポスト連帯系」VS「新興勢力」という対立構図は徐々に消滅すると思われる ― というよりはむしろ、行き詰まった政治の質を根本から変えるには既存構図を崩すより道はない。しかしながらその動きは離散集合を繰り返しながらも、社会民主、リベラル、右派保守、農民系(長期的に存続するかは疑問)という4勢力へと集約されるのか、あるいは新対立軸を基にたグルーピングへと向かうのか、行く先を占うのは難い。
いずれにせよ、当面は上述した政党を基盤とし、政界再編は進行することになる。
政界の安定度
政界は極めて不安定な状態に置かされている。
最初の難関は2004年度予算の議会承認。同問題が大議論を醸しているのは上述の通りで、野党の支持を取り付けるのは困難。ミレル首相が同案を押通すことに失敗すれば、首相交代か内閣解散となる。
現内閣任期は2005年秋までだが、ミレル首相は2005年春に選挙を実施する意向を公にしている。一方で、EU加盟国民投票以前には、クファシニエフスキ大統領と2004年に議会選挙を行うことで合意していた経緯もあり、選挙時期は非常に不明確となっている。ただ、政界では2005年春ということで暗黙の了解がなされているようだ。
しかしながら、与党SLD−UPに対する国民の不満は増大するばかり。ハウスネル経済相が中期財政倹約政策のなかで社会保障費削減を主張していることが、更に拍車をかけ、更なる与党離れは必至。野党がこれに乗じて内閣不信任案を出せば、下院はこれを可決する可能性が高まっている。PSLが与党を離脱して以来、SLD−UPは少数与党に転落したが、小政治グループPLDと無所属議員の支持で辛うじて下院における過半数票を保ってきた。しかし先日、頼みの綱であったPLDが政府不支持を明確に発表したことで情勢は緊迫している。
今後の展望
ポーランド政界の昏迷はまだ当分続きそうだ。
次期議会選挙の日程に関わらず、現与党SLDが再び政権を握る可能性は少ない(同党議員の口からもすでに諦めの声が上がっている)。かといって、野党で有力なPOやPiSがそれぞれ単独内閣を作るほどの支持は集められない。このため、いずれにせよ次も連立内閣となるとだろう。
中核となるPO―PiSが下院で過半数を占めるほどの勢力まで成長するかのいう点については大きな疑問が残る。両2党のみで連立政権が発足した場合、政策調整が多少厄介だが、成功すれば経済に強いPOと内政重視のPiSでバランスの取れた政権が誕生するのではないか。ただ、これにPSLやLPRが加わるようであれば、同政権首相の悩みの種は確実に増えることになる。
また、PiS―LPRで中軸を作りPSLが加わる可能性も捨て切れない。政策面ではPiS―LPRのみで政権を担ったほうが安定度が高いが、この場合極端に右傾するのでEUとの関係が問題となるか。
この他、有力な次期大統領候補の欠如も政界不振の一因となっている。絶大な人気を誇るクファシニエスキ大統領は二選を果たしたので、これ以上同職には就けない。SLD内には同氏に代わる候補はいないわけではないが、いずれも役不足の感が否めない。中道・右派陣営や新興勢力でもやはり適役と思われる人物は見当たらない。
有力雑誌が取り上げている次期大統領最有力候補は、現大統領夫人であるヨランタ・クファシニエフスカだ。つい最近実施された世論調査でも、夫人の人気は他の大物政治家をも寄せ付けず、立候補すれば当選確実といわれている。少し以前までは、大統領夫妻は口を揃えて夫人の政界デビューを否定していたが、今ではこのトーンも弱まり、大統領も決断は婦人次第とコメントするに及んでいる。同婦人の大統領就任が実現した場合、SLDとの関係を弱め、まさに「全国民の大統領」となる(現大統領もこの面では成功している)よう努めると予測されている。 国外では偉人待遇のワレサ元大統領も早々と次期大統領選挙出馬を表明しているが、国内ではすでに歴史的人物扱いされており、広範な支持を集めるとは考えにくい。
このように、ポーランド政界では決定的な指導力の欠如、相次ぐ政治スキャンダル、進行中の政界再編、新たな担い手となると思われた新興勢力の力不足などが原因で、市民の政治離れが更に進むのではなかろうか。
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(
ぬくい ひろき
2003.10.23)