SLDの凋落、POの躍進

ポーランド政界の動向  - 20042 -

 

抜井宏樹(E-mail: hzinfo@poczta.onet.pl)
COPYRIGHT by Nukui, Hiroki 2004

 

*本稿は「ポーランド情報館」編集部が抜井氏に依頼して執筆していただいた原稿である。快く執筆を引き受けてくれた氏に感謝の意を表する(編集部)。

 

 

ポーランド政界は現在、国家財政問題をめぐり正念場を迎えている。政治生命を危ぶまれる度に巧みに切り抜けてきたミレル首相は、財政健全化計画が議会承認されなければ早期解散はやむを得ない、と今回はまさしく背水の陣を布いている。

 

ミレル首相が率いる民主左翼同盟(SLD)は労働同盟(UP)とポーランド農民党(PSL)と連立を組み、200110月末に内閣を発足させた。スタート時には国民の絶大な支持を受けたミレル政権・SLDだが、市民の信頼を失うのも意外と速かった。政権発足当初のSLD支持率は45%前後であったが、2002年暮れには約30%まで低下、さらに2003年末には20%を割る水準にまで達した。この辺りで「底をうった」かと思われたが2004年に入りさらに悪化し、最近の世論調査結果[i]では13%にまで低下している。

 

ミレル首相と政府に対する市民の評価も絶望的レベルに達している。世論調査[ii]によると、政府の活動を良いと評価した回答者は6%と、最低値を記録した1月をさらに3%下回り、2月には非常に低い水準に達している。政府の活動は悪いと答えたのは90%で、前月を5%上回っている。首相自身に対する評価も低下の一途を辿っている。首相の活動を良いと評価したのは11%(前月比―7%)、「悪い」は82%(前月比+8%)と危機的なレベルに至った。

 

政府・SLDの衰弱に対し2003年末から市民プラットフォーム(PO)が大躍進を見せている。20019月に実施された議会選挙から2003年秋までは支持率1015%の範囲で浮き沈みを繰り返していた。しかしその後、同年暮れにから快進撃をはじめ、2004年に入り30%に迫る勢いだ。

 

 

SLDの凋落

 

ミレル政権発足の背景:右翼前政権は諸悪の根源、左翼は救世主

 

2001年議会選挙が行われた当時の社会情勢は、強い社会的不満と閉塞間に支配されていた。1997年に政権を担った「連帯」選挙運動・自由同盟(AWSUW)連立政権の最大の失敗は、1999年に実施された4大改革(年金、医療保険、教育制度および地方行政改革)だ。厳密に言えば、改革自体が及ぼした社会的混乱以上に、ここから派生した様々な出来事により、市民の不満は一層強強まった。また、AWSUWの連立解消、同政権末期に突然発覚した巨額財政赤字[iii]AWSの分裂、更には遅々として進まないEU加盟交渉など、マイナス要因が山積していた。AWS政権にとり更に不幸だったのは、景気後退により企業倒産件数・失業が増加したことだ。また、EU加盟を睨んで不採算国営企業の本格リストラも開始されていた。

 

ミレル首相が選挙キャンペーン時に連呼していた公約は、「右翼政権が残した混乱を片付け、国家・社会を正常化させる」ことであった。扇動的と思われるほど右翼陣営を徹底批判し、不満の絶頂に達した国民の支持を集めることに成功した。2001年議会選挙では、SLDUPが下院460議席中216、上院100議席中75を獲得し圧勝した[iv] 

 

公約破り 大きな期待を受けミレル政権発足:国家正常化の公約と「嘘」

 

選挙に圧勝したミレル首相は同年10月、連立パートナーにポーランド農民党を選び政権を発足させる。所信表明演説では、財政危機の回避(行政費削減、社会保障支給基準の見直し、税制改革など)、EU加盟交渉終了、医療制度の改善、失業率の低下、インフラ整備(特に高速道路建設)、教育重視、国営企業民営化促進、治安の向上などを公約として掲げた。混乱を極めた社会の安定化を約束した首相に対する市民の信頼はこの時期高かった。世論調査[v]では、48%の回答者がミレル首相は(国情が)改善するという信頼・希望を抱かせると答えている。自らミレル政権の支持者であると答える回答者も50%に達していた。また、SLD-UPの支持率も45%前後と高く、市民が生活状態改善を強く願っていたことが窺える。

 

しかし、市民の期待は徐々に裏切られる。2001年末には、EU加盟交渉において政府が国会に報告することなく、外国人に対する農地売却に関する交渉方針を変更していたことが発覚し、野党の辛辣な批判を浴びる。その後も、銀行貯金利子に対する課税や、産休休暇の短縮、病欠手当て支給条件の強化などが実施され、国民に負担がかかるような財政改革は行わないという公約が踏みにじられる。失業率は低下するどころか上昇し、高速道路建設・民営化は進展を大きな見せていない。教育においても前政権が導入した新規マトゥーラ実施を数年延期する決定をして学生を混乱に陥れるなど、やはり国民の期待をことごとく裏切るような事態が相次いている。

 

  相次ぐ政治スキャンダル

 

公約破りと並んで、SLD議員絡みのスキャンダルも支持率低下の主因となっている。特に最近では、同党議員が関与した汚職や脱税などのスキャンダルが連日のように新聞や雑誌の紙面を賑わせている。

 

腐敗体質改善を目指したSLD中央執行部は、全国党員の活動や経歴などの再チェックを2003年後半に実施し、素性が疑わしい人物や検察により起訴中の人物などを一斉排除している。この結果、15万近くいた党員が、現在は8万人まで減少したと言われている。しかし、減少分7万人のうち、SLDに自ら見切りをつけ離党した党員が大半で、除籍処分を受けたのはごく一部という報道がなされている。

 

また、同チェックで一度は「身辺が清い」と合格を受けた地方大物議員の不祥事も最近相次いで発覚しており、捜査当局やマスコミが嗅ぎ付けない限り、党員の不正には目をつむっているという体質が改めて浮き彫りになった。

 

  医療制度の破綻

 

前政権に対してミレル首相が最も強く批判を浴びせていたのが医療制度の混乱だった。しかし、ミレル政権は独自の改革を通じて事態を更に悪化させるという皮肉な状態に陥っている。医療制度の地方分権化、医療費財源の独立化、制度の近代化・柔軟化を骨子とした1999年の医療制度改革の失敗は主として資金不足が原因であった。

 

ミレル政権は改革策として、事実上医療制度の再中央集権化を実施した。同政策は医療制度の根本的財政難を解決するものではなく、組織や各医療機関との契約方法の変更といった表面的なものにとどまった。さらに、当時の健康大臣[vi]とその側近が同改革に伴う組織変更を、私腹を肥やすためのコネクション構築に利用していたらしい疑いが浮上し、一大スキャンダルに発展した。

 

20041月には、(同大臣がまとめた)現行医療制度法の一部は違憲とする憲法裁判所の判決[vii]が下っており、制度改革は振り出しに戻った。

 

ハウスネルプラン:国家財政改革に社会保障費の削減が主体

 

ハウスネル副首相兼経済・労働大臣がまとめたことから、政府の中期財政健全化計画は「ハウスネルプラン」と呼ばれている。今まで、右翼政権ですら手をつけなかった社会保障費を大幅に削減する政策を骨子とすることから、野党だけでなくSLD党内からの突き上げも厳しくなっている。

 

2004から2007年にかけて歳出を総額約300億ズロチ削減するのが同プランの目的だ。削減対象となるのは、財政を一番圧迫している社会保障費だ。改革の必要性が長いこと叫ばれながらも、中道・右翼政権すら抜本的改革を行わなかった、「タブー」の領域ともいえる。同時に、中央行政費削減も

組み込まれている。

 

2004年から抜本的な歳出削減を行わなければ、2、3年後には財政危機に陥る危険性が非常に高いというのがアナリストの見解だ。2004年から、EU拠出金やEU補助金の共同負担という新たな巨額歳出項目が登場するほか、同期間には対外債務返済がピークを迎るため、歳出削減抜きでは20062007には公的債務が対GDP60%を確実に上回る。同数値自体はさほど驚くべきものではないかもしれない。だがポーランドには、公的債務が対GDP60%を越えた場合、次年には赤字ゼロの予算案を策定することを義務づける法律が存在するため、大問題となっている。

 

ハウスネル副首相兼経済・労働相は、プラン初期の段階において2004年から社会保障費削減の実施を計画していた。しかし、雇用者・労組・政府3極会談やSLD党内協議を重ねるにつれて、ハウスネルプランは徐々に骨抜きにされている。

 

社会保障費削減には、SLDの一部だけでなく、ポーランドの家族連盟(LPR)、法と正義(PiS)、自衛(SAMOOBRONA)、ポーランド農民党(PSL)といった野党政党も断固反対している。所要政党のうち賛成をしているのは市民プラットフォーム(PO)のみだ。

 

ポーランド農民党が与党連立から離れ下野したことで、SLD―UPは少数与党の座に転落した[viii]。しかも、自党内部からもハウスネルプランに反対する声が高まっていることで、ミレル首相は窮地に追い込まれている。政府としてはPOの支持がどうしても欲しいところだ。実際両者は協議を行っている。しかし、ハウスネルプランだけでは物足りないとするPOと、あまりにもドラスティックな改革は避けたいSLDとの間でコンセンサスを見出すのは困難なようだ。SLDは2月末までに、POの要求は受け入れ可能か、返答することになっている。

 

ハウスネルプランの行く先を案じ、金融市場ではユーロに対しズロチは最安値を3回更新している。経済団体やマスコミは、ハウスネルプランに対する支持を一刻も早く表明するよう政界全体に呼びかけているが、野党はこれに全く反応せず不支持の姿勢を貫いている。

 

 

伝統的な左翼支持層離れ:左翼的イデオロギーの欠如

 

ここまで見てきたように、公約破りや医療制度の破綻、更には相次ぐスキャンダルにより一般市民の期待を裏切り続けたことにSLD弱体化の原因が潜んでいる。しかし一方で、根強い伝統的左派支持層を抱えているだけに、支持率二十数%ラインが底であるという見方があった。

 

だが、社会保障費の削減や、所得税率一律化など、リベラルな経済政策を打ち出すミレル政権に、いよいよこれら支持者が痺れを切らせはじめている。

 

  SLD解体の危機

 

SLD解体の危機はどうやらマスコミの噂だけではないようだ。217日にはミレル首相が、3月に開催されるSLD党大会で党首を辞任する意向を発表した。当然、党首辞後も首相ポストには止まることになる。だが党内では首相交代を行い、新体制で逆境を切り抜ける方針を主張する派閥が活動を活発化しているとも言われている。同時に、ミレル政権は少なくとも6月の欧州議会選挙まで存続すべき、というクファシニエフスキ大統領の見解もあり、情勢は極めて不安定になっている。

 

政治・社会学者の一部は、SLDの存在意義はもう亡くなったと捉えている。確かに、ポスト社会主義勢力とポスト「連帯」という歴史的対立構造は徐々に過去のものとなりつつある。また、政策面でも左翼政党の独自性を見出すことは困難だ。

 

しかし、左系イデオロギー支持層はいまだ根強く存在するといわれている。このため、SLDの代る新たな本格左翼政党結成の必要性が叫ばれつつある。ミレル首相が唯一の求心力であるSLDにおける新党首擁立は、今まで比較的安定していた左翼陣営が政界再編を開始する契機となるかもしれない。

 

 

 

 

POの躍進

 

2001年初頭の発足当時には大きな期待を集めたものの、同年秋の議会選挙以後は暫く十数%の支持率を続け精細を欠いていた市民プラットフォーム(PO)の転機は、ロキタ議員がもたらした。そのほか、党首交代により政策が明確化したことや、最近では国家財政問題においても主導権を握りつつあることが躍進の原因となっている。

 

「ロキタ効果」で大躍進

 

スホツカ内閣(19927月から19935月)では閣議担当大臣であったロキタ氏であるが、「政党遍歴」が豊富であることや一癖ある性格も影響して、実力を有しながらも長いこと政界の主流には乗れなかった。一時は保守人民党(SKL)党首を努めるが、同党がPOとの合流を決断したことで、PO入党以後暫くは地味な存在となった。2002年地方選挙ではコラコフ市長に立候補するも落選。ロキタ氏の政治生命ももはやここまでと思われていた。

 

しかし、左翼系大物人物が絡む一大政治スキャンダル[ix]2002年の暮れに発覚したことが、同氏だけでなくPOの支持率急上昇に一役買った。同スキャンダル解明に乗り出したポーランド政界は、下院特別捜査委員会を設置した。2003年から本格活動を始めた捜査委員会の活動は、ポーランドでは初の証人喚問テレビ生中継が中心となった。PO代表の捜査委員に選出されたロキタ議員は、明晰な頭脳を余すことなく発揮。事件関与が疑われる政界・ビジネス界大物に対し、毅然とした態度で、しかも巧妙な質問攻めで真相解明に全力を尽くす姿勢が市民の信頼を集め、一躍スター的存在となった。ロキタ効果は、富裕層、大都市住民、商業・ビジネス関係者のPOという印象に、「不正征伐、市民利益保護」というイメージを付け加え、確実に一般市民に親近感をもたらせた。

 

 

  党首交代で路線明確化

 

PO発足当時から党を率いてきた右派保守系のプワジンスキ元下院副議長は、政治理念の相違[x]を理由に2003年春に離党を決意した。後任にはリベラリストのトゥスク氏が選ばれた。大物政治家を多く抱えながらも党としてのイメージがぼけていたPOは、同トップ人事によりリベラル路線が強調されたことで、政界における位置づけがより明確になった。また、ロキタ氏がPO議員クラブ会長に抜擢されたことで、「法と正義」(PiS)のお家芸であった正義感も強烈にアピールし、財界や自営業者といった既存支持層に加え、保守系一般市民層の支持獲得にも成功した。

 

 

EU問題・国家財政問題で歴史的対立を越えた政策合意

 

旧社会主義体制下で事実的一党独裁を行っていたポーランド統一労働者党の流れを組むSLDと、「連帯」運動の中心的人物が旗揚げした「ポスト連帯系」といわれる諸政党から出た政治家が主要構成員であるPOPiSの間には、依然として嫌悪感・敵対心といった非常に強い心理的隔たりが存在する。

 

しかし、EU加盟に関しては、SLDPOは親EU派として一種の協力体制を敷いている。また、目下全国の注目を浴びている国家財政改革問題においても、POは政府案(いわゆるハウスネルプラン)を支持する構えを見せている。両党の歩み寄りは当然、政策が似ていることで可能になったことは確かだ。しかし、SLDを敵視し歴史的対立関係の枠を超えるどころか、協議すら行わず対立を激化しつつあるPiSとは対照的に、SLDの腐敗体質を弾劾しながらも具体的な政策では強調するPOの柔軟性もまた、支持率上昇の一因となっているようだ。

 

 

政界の展望:今後暫くPO中心は確実だが・・・

 

ポーランド政界は今後、間違えなくPOを中心に展開するといえる。しかし今でこそ上昇気流に乗り絶好調だが、実際に政権を握った場合多くの困難が予想される。主要課題を踏まえながら、政界の動向を占うためのキーワードをいくつかあげてみたい。

 

 

1) 国家財政改革:責任はPOの肩に

ハウスネルプランの展望やミレル政権の余命に関わらず、欧州統一通貨・ユーロ導入を目指し、次期政権はいずれにせよ国家財政改革を強いられることになる。当然ここでもPOが中心となるが、経済・金融政索に関しては、保守的なPiSLPRPSLとは一線を画しており、リベラリスティックな案を打ち出しているSLDとの方が数段相性が良いという事実がある。つまり、国家最優先課題においては左翼の協力が不可欠となる。しかし、昨今のSLDの衰退を顧慮すると、社会保障費削減を支持する左翼(の一派)の議席数が次期議会におけるどこまで伸びるか不透明。一方、社会保障費削減を否定するPiSLPRPSLが連立政権の一角を成せば、予算歳出構造の抜本的な改革は骨抜きとなる可能性も十分ある。右翼・左翼に挟まれ、舵取りが非常に厄介となる。SLDと大枠で類似した経済政策を持つPOは、条件付き[xi]でハウスネルプラン支持を表明している。経済政策では他政党の支持を期待できないことを十分承知しているPOには、SLDのまだ余力があるうちに利用して、自党政策の一部を今のうちに具体化しておくという魂胆もある。政府与党は現在、2004年から2007年にかけて社会保障費・行政費削減により財政赤字を大幅に削減する主旨のいわゆる「ハウスネルプラン」の存続をかけ必死になっている。政界では、同プランに対する野党の支持が得られなければ、議会の早期解散は間逃れないという見方が強まっている。場合によっては、今年5月にも選挙が実施されることになる。

 

2)EU加盟

  200451日に、ポーランドはEUの正式加盟国となる。政界において、同テーマはとりあえず議論済みとなっている。反EU陣営も、EU枠内でポーランドのアイデンティティ・国家主権・国益をいかに守るかという観点に議論の焦点を移しつつある。EU加盟が間近であるという事実も、POにとり追い風となっている思われる。しかし、EU加盟によるショック(一時的な物価上昇や中小企業倒産など)が大きければ、EU反対派のLPREU懐疑派のSAMOOBRONAPiS PSL といった政党の勢力増大につながる。 

3)欧州議会選挙

 次回議会選挙の前哨戦となる欧州議会選挙が今後の政局を占う上で重要な役割を果たす、と昨年までは見られていた。しかし今年に入りSLD支持の急落とPO人気が顕著になったことで、今後の概ねの展開は決まったも同然。欧州議会選挙の結果も今では予想がつくため、意義が薄れつつある。欧州議会選挙ではどの政党に投票するかというアンケート[xii]では、PO29%を獲得し14%2位の「法と正義」(PiS)、13%3位の民主左翼連合―労働同盟(SLD-UP)を大きく引き離している以下、自衛(SAMOOBRONA)― 11%、ポーランドの家族連盟(LPR)―10%、ポーランド農民党(PSL)―5%と続く)。

 

4)協力関係にあるはずのPiSとの不和:連立政権で調整困難?

世論調査で30%近い支持率を得ているPOだが、将来的に下院で単独過半数を獲得する可能性はゼロに近いといえる。当然連立パートナーを探すことになるが、協力関係にあるPiSとの関係がこのところ目にみえて悪化している。最近右傾を強めるPiSLPRPSLとの関係強化を模索中だ。恐らく、POPiS連立でも過半数確保が困難になると思われ、結果として少数与党に甘んじるか、第3政党の力を借りることになる。いずれにせよ、国会運営や政索調整で苦労することになる。

 

5)ポピュリスト政党の突き上げ

 中央統計局が発表した1月の失業率 は20.6%だった。ハウスネル副首相は失業率は年末に19%台へ下がると見込んでいるが、いずれにせよ非常に高い水準だ。また、51日のEU正式加盟により生活必需品の一部が値上がりする。新車や住宅価格の値上がりはすでに始まっている。財政改革の一環として2005年からは年金に対するインデクゼーション方式が変更となる予定だ。物価上昇率は現在低水準で安定しているため、各年金生活者への実質負担はさほど大きくない。しかし、ただでさえ高額でない年金にも手がお及んだ事実は、大きな精神的負担を与えている。一般市民がEU加盟の恩恵を実感できるようになるまで、最低数年は必要という予測もされている。さらに、中小企業倒産の一時的な増加も懸念されており、一般市民層における不満の増大を吸収し、ポピュリスト政党・「自衛」が更に勢力を伸ばすことも十分に考えうる。次期議会で「自衛」が野党第一党となることも除外しきれないだけに、既存政党の結束が望まれる。

 

6)薄いリベラル支持層

いわゆる「中流階級」が形成されていないポーランド、旧体制に対するノスタルジーが年々拡大する社会において、リベラルな政策が広範な支持を得うる基盤は基本的に存在しないといえる。PO支持層は、自営業者や経営者・金融関係者、若者、大都市住民で、体制移行以来の諸改革・変化に揉まれながらも生活水準の向上を肌で実感している比較的裕福な層、EU加盟に期待を寄せる若者が中心となっている。同層のシェアは決して大きくなく、ロキタ議員の活躍がPO人気拡大につながる以前の同党支持率が10%前後であったことからも推測できる。このため、POがあまりにもドラスティックな政索打ち出し一時的にでも一般市民への負担が増大すれば、「ロキタ効果」によって吸い寄せられた支持層が離れることも考えられる。「どの政党が政府の質を向上させると思うか」というアンケート[xiii]では、POが一番よい結果を残したが26%を得たに止まっている。22%で二位のPiSSLDとも大差はない。また、40%以上の回答者が、どの政党も現在のSLDと同じような政権になる(つまり質の向上は見込めない)と答えている。どうやら、絶大な人気とは裏腹に、POに対する期待が多党と比べ特別に大きいということではないといえる。昨今の好調も一種のブーム的側面を持っていることがわかる。

7)新次元へ向かう政界再編

政界における最近の動向を大きな流れの中で見てみると、変化の傾向が新たな次元へ向かっていることに気付く。体制移行から十数年間にわたりポーランド政界の特徴であった「ポスト共産主義勢力  対 ポスト「連帯」勢力」という対立構図が確実に消滅しつつある。代わり顕著になりはじめたのは、市民プラットフォーム 対 自衛」という新構図だ。やや簡略化して表現すれば、この対峙は、国家の近代化や諸改革を止まずに継続しようとする勢力と、旧体制を懐かしむ勢力の対立と言い換えることができると思われる。体制移行以後の諸改革を上手く乗り切り、生活水準が向上したことを肌で実感している社会層、EU加盟に大きな期待を寄せる市民が前者にあたる。後者は体制移行により生活水準が悪化した社会層で、EU加盟にも反対か懐疑的である市民が多く含まれる。後者市民層の利益を代弁する政党の筆頭としてあげられるのがSamoobronaだ。 PiSLPRPSLも同市民層の利益を保護する傾向にあるが、それぞれが持つ政治的ヴィジョンが鮮明さを欠いているだけでなく、各党が持つ独自の特徴により支持層が限られているという理由からも、勢力拡大に苦労している。前者を代表する政党はPOミレル政権下のSLDだ。しかしSLDが崩壊の危機にあることから、同層の期待はPOに集中することになる。水面下では一方、ブゼク前政権の中核を成すしながら2001年議会選挙では落選した右派諸党が最結集の動きを見せている。左翼政権の衰弱を目の当たりにし、中央政界復帰のチャンスを虎視耽々と狙っている。さらに、PiS、LPR、PSL が互い協力体制を模索しはじめている事実や、左翼陣営が再編を開始する可能性も踏まえ、「市民プラットフォーム    自衛」という一時的な対立構図にどのように絡んでくるのか? とりあえず、現段階においては政界全体がハウスネルプランの動きを観察中だ。3月には同案の国会審議が始まる。ハウスネルプラン通過・不通過が明確になれば、政界は一気に動き出すと思われる。

 

 

 

(ぬくい ひろき 2004.02.27)

 



[i] 2004210日「ジェチュポスポリタ」新聞

[ii] OBOP20042

[iii] 国家財政危機の警鐘を鳴らしたバウツ財務相は解任されている。

[iv] 同選挙では、政権与党であったAWS、また一時連立パートナーであったUWも得票率が5%以下で議会で1議席も獲得できなかった。一方で、1989年以来の諸改革に対する市民の疲れ、社会的混乱 に対する憤懣、政治化の腐敗は、既存政党全体に対する批判に繋がり、政界エリートを徹底批判す る「自衛」(SAMOOBRONA)やポーランドの家族連盟(LPR)といった新興勢力の急激な成長を

助長した。

[v] CBOS 200111

[vi] 同健康大臣は後に、SLDから除名されている。

[vii] 憲法裁判所は、現行法の有効期間を2004年末までと定めた。このことは、200511日から、医  療制度を規定する新法が機能せねばならぬことを意味する。下院委員会で新法をめぐる議論が始まっているが、法案作成・国会審議・大統領承認といった一連の手続きを今年中に終えることができるか一部で疑問視されている。

[viii] 小政治グループや無所属議員の支持を受けることで、辛うじて過半数を維持している。

[ix] メディア関連会社社長が、国内最大発行部数を誇る「ヴィボルチャ」新聞の発行元・アゴラ社に対し政府法案の金銭取り引きを試みた事件。当時の国営テレビ局長をはじめ、中央官庁、首相や大統領をも巻き込んだ一大スキャンダルとなっている。2003年始めから活動を開始した下院捜査委員会は、20043月に最終報告書を発表する予定。裁判は開始されたばかり。

[x] POが限られた富裕層の政党になってしまったことで、一般市民に広く開かれた保守政党結成を目    指すプワジンスキの理念から離れてしまった。

[xi] 1)個人所得税、法人税、付加価値税率の15%一律化、2)2004年度から歳出削減を実施、3)2月末までに両案受け入れの可能性を明らかにする、というのが条件

[xii] 「ジェチュポスポリタ」紙、2004216

[xiii] OBOP2