渡辺克義
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ポーランド語の難しさはいろいろありますが、数詞の複雑さはその中でも最たるものの一つでしょう。ポーランドの言語学者 Jan Miodek は、「さまざまな数詞の変化はポーランド語を使用する者に最も多くの困難をもたらしており、外国人の多くには突破できない壁となっている」と述べ、さらに「私たちの言葉の正確なことを誇りに思わずにはいられない!」とも言っています。
数詞の難しさは実はスラヴ語共通の現象のようです。運輸大臣試験事務代行機関の国際観光振興会が年に1回行う通訳案内業試験(通称、ガイド試験)のロシア語の問題には、必ず数詞絡みの問題が出ます。以下は平成10年(1998年)度実施問題の第【6】問ですが、これがポーランド語ではどうなるかちょっと考えてみてください。
次の日本語をロシア語にしなさい。数詞
もロシア文字で記すこと。
(1)出力100万キロワットの発電所
(2)7時5分前まで
(3)西暦2000年以降
(4)ソックス5足
(5)23個の時計
解答例を挙げるとすれば、次の通りです。
(1)elektrownia o mocy miliona kilowatów,
(2)(aż) do szóstej pięćdziesiąt pięć [「7時5分前」はza pięć siódmaですが、これに(aż)doを付すと前置詞が連続しますので、文法的には問題があります]、(3)po roku dwutysięcznym、(4)pięć par skarpetek、 (5)dwadzieścia trzy zegary.
数字は日常生活に不可欠な要素ですから、とりわけ買物や雑談程度の範囲内なら、母語話者はその使用に苦労しないのが普通です。しかし、ポーランド語の集合数詞(liczbniki zbiorowe)だけはそうとも言い切れないようです。
集合数詞はまず男女混合グループに対して使われるものですから、dwoje mężczyzn(正しくは dwaj mężczyźni または dwóch mężczyzn)[男性2人]や dwoje kobiet(正しくは dwie kobiety)[女性2人]という形は誤りです。
集合数詞は、複数のみで現れる名詞(これを「絶対複数」(Plurale tantum)といいます)と共に使われます。したがって、「はさみ2丁」は dwoje nożyczek となります。Teresa Friedelówna の研究(Kategoria plurale tantum w języku polskim, Toruń 1968)によれば、現代ポーランドにおける絶対複数の数は約800語です。
2つで1セットとして扱われることが多いものも同じ扱いを受けます。(例えば、dwoje oczu[目2つ])。
単数主格が -ę で終わる名詞が複数で用いられる場合は、集合数詞が現れます。(例えば、kilkoro zwierząt[動物数匹])。
ここで問題が生じます。中性名詞の dziewczę (女の子)はどうなるのでしょうか。dziewczyna や dziewczynka ではなく dziewczęを使って「2人の女の子」と言いたい場合、dwoje dziewcząt、dwa dziewczęta、dwie dziewczętaのどの形が正しいのでしょうか。Nowy słownik poprawnej polszczyzny PWN, pod redakcją Andrzeja Markowskiego, Warszawa 1999, s. 190によれば、dwoje(またはoboje)dziewczątだけが正しいとされています。しかしその一方で同辞典は、troje dziewcząt, czworo dziewcząt…という正しい形の代わりに、口語では trzy dziewczęta, cztery
dziewczęta…が用いられていると記し、この口語形が誤りだとはしていません。2だけが集合数詞を用い、3以上は集合数詞でも個数詞でもよいとはどういうことでしょうか。実に不可解です。
では、ludzieはどうでしょうか。当然、男女混合グループなら集合数詞が用いられます(例えば、dwoje ludzi)。Roman Polańskiの1958年の作品“Dwaj ludzie z szafą”の邦題は「タンスと2人の男」ですが、これは2人の男がタンスを持って移動する話ですから、正しい訳です。
dzieciは集合数詞と共に用いられます。「子供が2人います」をMam dwoje dzieci. と言えば、男の子が2人とか女の子が2人という組み 合わせは否定されます。その場合にはそれぞれ、Mam dwóch synów. Mam dwie
córki.と“具体的に”言う必要があります。
合成数詞の場合、それが集合数詞の使用に関係する時は、すべてを集合数詞にしても最後の構成要素だけを集合数詞にしても問題はありません。したがって、「36人の子供たち」(男女混合)はtrzydzieścioro sześcioro dzieci でもtrzydzieści
sześcioro dzieci でも構いません。では、「300人の子供たち」はどうなるでしょうか。正解は trzysta dzieciです。つまり、sto, dwieście, trzysta…に対応する集合数詞が存在しないのです。「集合数詞は不完全だ」と言ったら、言い過ぎでしょうか。
以上長々と集合数詞の話をしてきましたが、これでも主格でのことでしたからほんの序の口に過ぎません。格変化はポーランド語の命です。生格はどうなる、与格はどうなる、などと考えていくと、本当に頭が痛くなります。
絶対複数といえば、地名にもそれがあります。Dąbki, Helsinki, Katowice, Laski, Łapyなどたくさんあります。これらの地名の最大の問題点は複数生格がどうなるかです。「私はまだカトヴィツェを訪れたことがありません」は、例えば Jeszcze nie zwiedziłem Katowic.と訳せますから、複数生格がどうなるか知っていることが求められることがあります。しかし、いくらポーランド人でも絶対複数の地名のすべてについてその複数生格を正しく記憶しているわけではありません。加えて、Tychyのように、地元の人間が複数生格にTychówを使っているというのに、ポーランド全土ではTychが用いられているというような厄介なケースもあります。このような場合には、miasto, miejscowość, wieś などの語の後に主格で地名を挙げておけば大丈夫です。例えば、Serdecznie pozdrawiam Was wszystkich z miejscowości Dąbki.(ドンプキから皆さんに心からご挨拶申し上げます)のようにです。こうすれば絶対複数の地名を持つ土地からも絵葉書が知人に送れます。
(『WISLA』第23号 2000年6月30日発行)