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福島千穂




「国際ドッグショー」イン・ワルシャワ


私は現在、ワルシャワ大学の歴史学部に留学中です。
歴史学部の2階(ヨーロッパ風には「1階」)踊り場には、微笑ましい一角があります。
壁に何枚もの動物の写真が貼られているのが遠目からもわかるのですが、近づいてよく見ると・・・、
写真の犬・猫・鳥たちの名前がフルネームで記されています(日本でいえば、「山田ポチ」「鈴木ちび」といったところでしょうか)。
しかし、これらの苗字、なんだか見覚えがある・・・学部の教官たちと同じ苗字ではありませんか!

そう、それらは先生たちのアニマル・パートナーの写真なのです。
なかには教授とワンちゃんのツーショットなどもあって、なかなかに愛嬌たっぷりです。
幼稚園・小学校ならばともかく、まさか大学にこんな遊び心があろうとは思いもよりませんでしたので、驚くとともに、いかめしい大学の建物が何やら親しみやすく思えるようになりました(2003年12月現在、歴史学部の建物内では大規模な改装工事がほどこされており、先生たちと動物のコーナーは取り払われてしまいました。改装終了の あかつきに復活なるかは、見守りたいところであります)。

ここでは、ポーランドにおける犬について、私の観察したところ・思うところを書かせていただきたいと思います。(犬とともに人間のアニマル・パートナーの双璧をなす猫については、観察不足のため、お話しすることができません。飼い主と一緒に外出する犬とは異なり、飼い猫がこちらの目に触れることはあまりありません。)

ポーランド人が犬をこよなく愛でていることは、彼らの暮らしの表面しか見ていない私にもよく分かります。
冬の酷寒・夏の猛暑(←ポーランドでこの表現は、大袈裟か)のなかでも、彼らは愛犬の散歩に日々いそしみます。
日本とは異なって驚かされるのは、市街地においてもリードなしで散歩する犬が多いことです。車道に飛び出しはしないかとハラハラしながら見ているのですが、飼い主から離れてやんちゃをする犬は滅多にいません。
また、大型犬に口輪をはめているのもよく見かけます。しかし必ずしも彼らが「咬む」ということではなく、周囲の人々を心理的に圧迫しないようにとの配慮という場合が殆どでしょう。

散歩させる人々は、老若男女、非常に多様です。しかし一様に、優雅にも、彼らはまったくの手ぶらなのです。
すなわち、散歩中に犬たちが地面に落とすものに対して、こちらの愛犬家たちは責任を取りません。
よって、草地には安易には踏み込まぬほうがよろしいでしょう。
春先には一層の用心が必要とされます。
冬のあいだ積雪の下に凍結していたそれらが、一斉に解凍されて姿をあらわにします。
(その点、ワジェンキ公園等、犬が入れない公園の緑地は安全・・・芝の上に寝転がっても大丈夫です。)

「フン害」は改善しなければならない(一般に、ポーランド人の公衆モラルはかなり低く、例えば、煙草のポイ捨てなどは日本以上)問題ですが、ポーランドの人々と犬との関わりには、見ていて心温まるものがあります。
さすがに、教会・商店・一部の公園など「犬お断り」の場所もありますが、お店の前などには、スフィンクスのように座り込んで買い物中のご主人を待つ健気な彼らの姿が見受けられます。
どこかにつながれているわけでもないのに、頑としてその場から動かぬ忠犬ぶりを発揮する犬もおり、その毅然たる姿には感服してしまいます。
概して、日本と比べてこちらでは、人と犬とがより親しく接しているといえるでしょう。
これまでにいくつかの博物館で「犬は入れません」との注意書きを見ましたが、これはつまり、「うちの可愛いワンちゃんも、当然一緒に入るわよ。悪い?」と考える人々が少なからずいることを示すものでしょう。
また、犬を怖がってヒステリックに泣きわめく子どもを見かけることがないのも、日本とは異なるところです。
ポーランド人は総じて、たとえ家庭に犬がいない場合にすら、幼少時から犬には慣れ親しんでいるものなのでしょうか。

はじめのほうでお断りしたように、飼い猫を観察する機会にはなかなか恵まれません。
しかし私は、ポーランド人はきっと、猫よりも犬のほうが好きなのに違いない、と半ば確信の域にいます。
なぜなら。

ステレオタイプ化するのは好ましいことではありませんが、一般にポーランド人は「シュラフタ気質」だと言われています。
「シュラフタ」とはポーランドの貴族のことですが、彼らは犬というよりはむしろ、猫のイメージではないでしょうか。
猫は、平時には群れを成さず、小さな自分だけのテリトリーの中では自分こそがあるじ。社会性が高く、群れ(飼い犬の場合は家族)の序列の中に適当な位置を占めようとする犬とは正反対です。
その一方で、猫には深夜に集合する習性があります。偶然にこの「猫の集会」に遭遇するのは、随分と気味が悪いものです。
「猫の集会」のイメージは、なぜか私に、かつてポーランド全土からシュラフタが集った議会Sejmを思い起こさせます。
もしも、ポーランド人が事実「シュラフタ的」なのだとすれば、ポーランド人は「猫的」であると、みなすことはできないでしょうか。

美貌には定評のあるポーランド女性が、我が儘で気まぐれなところがある、という話はよく耳にします(これは私にとっては、まさに猫のイメージ!)。
自分が相手の顔色をうかがうよりは、むしろ、相手が率先して自分の意を汲んでくれることをのぞむ。
こういう猫的な人は、かえって犬との間に、心地よい関係を築くことが出来るものです。

ポーランド人と犬との関わりを日々観察して楽しむ私に、4月の上旬、絶好の機会が訪れました。「国際ドッグショー」イン・ワルシャワ。

人が集まる場所は苦手な私も、この場へは意気込んで出かけました。
ワジェンキ公園やウヤズドフスキ宮殿に近い、「Torwar」を会場に、そのショーは3日間にわたって開催されました。
「ショー(wystawa)」といっても実質はコンテストであり、「国際」と銘うってはいても、審査員がヨーロッパ各国からの選抜メンバーであるというだけで、出場する側は、犬もオーナーも殆どが地元出身者だったようです。
(余談:ポーランドに非ヨーロッパ系外国人は多くないので、ワルシャワでは首都とはいえ、しばしば不審そうに凝視されて緊張するのですが、この会場では、皆が犬を観るのに真剣で、「珍しい人間」は見向きもされないのが嬉しい驚きでした。)

会場はいくつかのリングに分かれ、各リングでまずは犬種ごとの審査が行なわれます。BGMにポロネーズが流れる中、各犬、静止してキメのポーズをとったり、ウォーキングを披露したり、日本でもこの種の催しに足を運んだことのなかった私には、非常に面白かったです。
ワンちゃん達は、この日のためにこざっぱりしてやって来るので、会場中にペット用シャンプーの香りが漂います。
出場犬は皆、基本的にはよく躾されているのですが、やはり他の犬にケンカを売って飼い主に怒られるのや、失禁するのもいて、微笑ましいものです。

1日の終わりには、メインのリングに各犬種の選抜メンバーが集まり、部門別(おそらく体格や、あるいは猟犬・牧羊犬などのカテゴリーによって分けられていたようです。また、老犬部門や、雄雌一組でエントリーするアヴェック部門もありました)のチャンピオンが選ばれました。3日間にわたるドッグショーの、私は最初の1日しか観なかったため、最終日に発表される総合チャンピオンは、残念ながら見届けることができませんでした。
私が訪れた日には、秋田・柴など日本犬の審査も行なわれていました。
実際に彼ら自身はこちらの生まれ育ちであるにも関わらず、その丸い顔・小さな目の容貌は、こちらの里心に訴えかけてくるものがありました。
また、「go?czy polski」「ogar polski」という、ポーランド原産の犬がいることを、この日初めて知ることになりました(go?czy、ogarはともに、=猟犬)。
黒味がかった茶色の地味な犬たち(失礼)でしたが、彼らのうちの1匹が賞を受けた際に、司会者が「私達の犬が、国際舞台でこんなに高い評価を受けましたよ!」と声を張り上げたのが印象に残っています。こんなところにもパトリオティズム、ですね。

さて現在は夏至も近づき、皆が待ちこがれていた、最も開放的な季節が到来しています。好天の日には30度にもなりますので、散歩する犬達は体温調節のために舌をだらりと垂らします。
大型スーパーには、アウトドア用品の特設コーナーが設えられ、バーベキューのセットやテント、寝袋、防虫剤などが並びます。週末にどこか郊外でキャンプをする一家には、もちろん大切な犬も同伴していることでしょう。(2003年5月)



「国際ドッグショー」イン・ワルシャワ


(日ポ協会関西センター『WISLA』第30号 2003年9月31日発行)