EU東方拡大とポーランド社会の動向

 

田口雅弘

(copyright by Masahiro Taguchi, 2002)

 

1 EU加盟に対する世論の動向

 ポーランドは1991年にECと連合協定を結び、これをもって一般的にはEC準加盟と呼ばれてきた。また、1995年にWTOに加盟、1996年にOECDに加盟し、1999年にはハンガリー、チェコと共にNATO正式加盟を果たして、着々と国際社会および欧州への復帰を果たしてきた。

 ポーランドのEU正式加盟時期については、20042006年頃と様々な憶測があったが、最近は交渉の遅れから、一部で第一陣への参加さえ疑問視されていた。しかし、昨年9月の国際同時多発テロ以降、米・西欧とロシアが政治的に急速に接近し、最終的にロシアがEU東方拡大に理解を示したこと、EUの政治的団結を求める雰囲気が醸成されたことなどから、EU東方拡大の気運は再び高まった。

200112月にブリュッセルのラーケン宮で開かれていたEU首脳会議では、ポーランドをはじめ、チェコ、ハンガリー、スロバキア、リトアニア、ラトビア、エストニア、スロベニア、キプロス、マルタの10カ国は、2002年までにEUとの交渉を終了させた場合、2004年のEU議会選挙に参加できることが決定された(The Presidency Conclusions, 2001)
 20023月時点で、ポーランドのEU加盟交渉は、29交渉分野のうち約3分の2の分野で交渉が終了している。改革のテンポが今後も維持されることが加盟の条件であるが、基本的には2002年中に折衝を終え、2003年のEU加盟の是非を問う国民投票を経て、2004年の正式加盟に備える予定となっている。
 ミレル首相はEUの決定を高く評価しているが、国内の世論調査では相変わらずEU参加への賛否が拮抗しており、国民のEUに対する不安は払拭されていない。2003年のEU加盟の是非を問う国民投票が政府にとって正念場となる。

表1は、ポーランドにおける国民のEU加盟に対する態度の変化を示した世論調査センター(CBOS)のアンケート調査報告書から抜粋したものである。この表にあらわれているように、国民のEU加盟に対する態度は大きく変化している。特徴的なのは、1990年代後半に国内総生産(GDP)が年率平均5%近く伸びているにもかかわらず、つまり経済が高度成長のトレンドを示しているにもかかわらず、EU加盟支持は急速に減少していることである。

 

表1 ポーランドにおける国民のEU加盟に対する態度の変化

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

6

5

5

4

8

5

8

12

5

11

2

5

9

3

5

6

7

10

12

1

賛成

77

72

80

72

72

66

63

64

55

59

55

59

55

55

55

54

53

56

60

57

反対

6

9

7

11

12

19

19

19

26

26

26

25

26

30

28

29

25

24

22

22

わからない

17

19

13

18

15

15

18

17

19

15

19

16

19

15

17

17

22

20

18

21

(出所)CBOS (2002).

 

高度成長にも関わらず、国民の経済の現状に対する満足度調査では、国民の不満や先行きに対する不安が極めて高いことが伺える。その原因は、落ち着いてきたとはいえ相変わらず高いインフレ率(7%以上)、再び高まってきた失業率(約18%)、EU加盟を控えたリストラ強行に対する懸念、生活格差の拡大、老後への不安、などである。とりわけ、EU加盟を早期に実現しようとすれば、炭坑や国鉄など改革が遅れている大企業のリストラを断行し、農業の「構造調整」を加速させなくてはならない。しかし現場から見ると、EU域内で生き残っていくためには、10年以上準備期間が欲しいところである。政府がEU加盟を急げば急ぐほど、国内では不安が高まるというのが現状である。また現在、EUに加盟すればさらに豊かになれるという幻想が消えて、逆に不信感が高まっている。ポーランドの経済回復に伴い、EUからの風当たりも強くなってきた。たとえば、ポーランドは外国企業を積極的に誘致するために設置した特別経済指定地区に格別の優遇条件を設定したが、これは公正な競争を阻害するとして、EUからその撤廃を迫られている。

表2は、最終学歴別にEU統合参加への支持を見たものである。この表からも明らかな様に学歴が高くなるにしたがって、EU加盟の肯定派が増えている。これは、構造調整に伴う失業の不安が、非熟練労働者の間で大きく、高学歴の労働者はEU加盟をポーランドにとっても自分の人生にとっても大きなチャンスととらえていることが伺える。

 

表2 最終学歴別EU統合参加への支持

 

ポーランドのEU参加を問う国民投票において:

賛成

反対

白票

態度未決定

小学校

38

14

37

11

職業中学校

48

15

25

12

高校

59

11

20

10

大学

72

10

8

10

全体

49

13

27

11

出所Kolarska-Bobińska, Lena ed. (2001), p.25.

 

表3は、居住地の規模別にみたEU統合参加への支持・不支持を表している。この表からも明らかな様に、大都市圏ではEU参加への支持が高く、農村部では反対派が多いことがわかる。これは、農業構造調整の名の下に、農村のリストラが進行しつつあり、EU参加によって多くの農家が経営の危機にさらされることに対する不安の表明でもある。また、地方都市部で支持が低下するのは、20%に達する地方都市部の高い失業率が、EU参加によって改善される見通しがなく、むしろさらなる失業率の増加が懸念されることに対する不安の表明である。

 

表3 居住地の規模別EU統合参加への支持

 

 

ポーランドのEU参加を問う国民投票において:

賛成

反対

白票

態度未決定

人口20万人以上の都市

57

10

21

12

人口520万人以上の都市

54

10

25

11

人口5万人以下の都市

52

9

31

10

農村

41

19

28

10

全体

49

13

27

11

出所Kolarska-Bobińska, Lena ed. (2001), p.26.

 

 CBOS2002110-14日に行った世論アンケート調査結果には、EU加盟がポーランドにおよぼす影響を国民がどのようにとらえているかが如実に示されている(CBOS, 2002)。「EU参加は、全体としてポーランドにプラスとなり、良い方向に改善される」とEU参加を肯定的にとらえているのは、回答者の26%である。肯定的にとらえている回答者のうち、その理由は次の通りである(複数回答可): 「失業が減少し雇用機会が増える」(26%)、「経済にプラスとなり、経済発展により良い展望を与える」(19%)、「物質的生活が改善され、生活の質が向上する」(18%)、「グローバルゼーション・プロセスにおいて、孤立しヨーロッパ統一の傍観者となることはできない」(10%)

 一方、「統合によって、全体としてポーランドにとって利益は全くないか弊害がある」とEU参加を否定的にとらえているのは、回答者の18%である。否定的にとらえている回答者のうち、その理由は次の通りである(複数回答可): 「ポーランドは準備不足で、EUに参加するには脆弱で貧しく、(現状では)EUにとって対等のパートナーとはいえない」(20%)、「ポーランドの独立性の喪失、従属化、外資によるポーランドの買収、ポーランド人の隷属化、労働力の低賃金化、等の不安」(20%)、「統合は経済、工業、EU諸国との貿易にとってマイナス」(13%)、「統合は現EU諸国にとってプラスであり、ポーランドは不利な立場、二級の立場におかれる」(12%)

 別な調査では、表4のような結果が出ている。

 

表4 統合により予想される影響 (%)

 

 

a

b

c

d

e

f

g

ポーランドの対外安全保障の強化

26

44

70

15

3

18

12

雇用と他の欧州地域への居住の可能性の増加

16

49

65

16

3

19

16

外国人によるポーランドの土地買収

23

41

64

23

3

26

10

ポーランドにおける人権擁護の拡充

18

43

61

18

4

22

17

EUによるポーランド農業の支援

11

48

59

20

6

26

15

一部産業の衰退と失業増加

17

39

56

24

4

28

16

一般の人々の生活水準向上

6

35

41

37

9

46

13

ポーランド農業の衰退

15

25

40

35

9

44

16

ポーランドの伝統・文化の弱体化

7

24

31

45

15

60

9