ドイツ映画の話題


阿部津津子




1.ベルリン映画祭「銀熊賞」作品の舞台はフランクフルト・オーデル

 今年2月6日から17日までベルリンで開催された「ベルリン国際映画祭」で、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が金賞に当たる「金熊賞」を受賞し、大好評を得たことは記憶に新しい。この映画祭で、銀賞に当たる「銀熊賞(審査員特別賞)」を獲得したのが、旧東ドイツ出身のアンドレアス・ドレーゼン監督の「ハルベ・トレッペ(グリル・ポイント)」である。この映画の舞台となっているのはドイツ・ポーランド国境の町フランクフルト・オーデルで、中年男女の日常生活が描かれているという。私はまだこの映画を見ていないのでこれ以上の知ったかぶりは書けないが、なぜ今フランクフルト・オーデルなのか、興味のあるところである。旧東ドイツ出身の知人によれば、フランクフルト・オーデルは典型的な東ドイツの町と言うわけではなく、東ドイツ人の目から見ても「東っぽい」ちょっとエキゾチックな町なのだそうだ。

2.文句無しのイチオシ!ライナー・マツタニの最新作

 おっと、これは新しいぞ!というのが、ライナー・マツタニの最新作「666ベッドは魔の領域」(仮訳:原題は666 Traue keinem mit dem du schlaefst!:2001年独、監督・脚本ライナー・マツタニ)を見た第一印象だった。ドイツ映画界の若手最有望株との噂は聞いていたが、この人は本当に才能がありそうだ。

 (あらすじ)学校は中退、サキスフォン奏者としての才能も開花せず。何をやってもさえない男フランク・ファウストは、バーデンバーデンでしがないタクシードライバーとして単調な日々を送っている。新しい生活を求める恋人のジェニファーは、そんなフランクを見捨ててミュンヘンへ去ってしまう。失意のフランクの前に現れるのが、お人好しでちょっとドジな悪魔メフィスト2世。フランクの魂と引き換えにジェニファーを取り戻してくれるという。半信半疑のフランクだが、メフィストと共に一路ミュンヘンへ。メフィストの魔力でフランクは当代きっての内装アーティストに変身する。一躍有名人になったフランクの周囲には、プロテニスのボリス・ベッカー、テレビ司会者のヴェローナ・フェルトブッシュ、スーパーモデルのクラウディア・シファー、ボクサーのヘンリー・マスケらドイツ芸能界のお歴歴が引きもきらず登場する。新恋人との生活をはじめていたジェニファーの心も、徐々にフランクに傾きはじめる。結局、フランクは天使から貰った指輪に助けられて、ジェニファーを取り戻す。メフィストとの契約は無効となるが、メフィストもゲイであることを父親に認めてもらい、新しい人生(?)を歩み出す。

 ドイツの有名人が多数出演しており、その演技が見物だったが、ドイツ芸能界に詳しくない人も十分楽しめる内容に仕上がっている。冒頭、フランクが見知らぬ小さな女の子のために、逃げ出したペットの仔豚を泥んこになりながらも追いかけてやるシーンがある。ダメ男フランクの秘められたやさしさと情熱を暗示する場面ではないだろうか。ちなみにドイツでは、豚は幸運のシンボルである。フランクは後に、この女の子がお礼にくれた指輪に助けられることになる。この子は実は天使だったのだ…。ゲイのメフィストがフランクに恋したり、ジェニファーだと思った相手が、実はメフィストのお父さんだったりとハチャメチャな展開だが、とことんジェニファーを追いかけるフランクの姿が、純愛に対するポジティブなメッセージを放っている。ギャグのテンポもジャストミートで、約90分間冗長さを感じさせる部分は一個所もなかった。登場人物が全員幸せになる、超ハッピー、元気の出るコメディー!ライナー・マツタニの今後の活躍に注目したい。ドイツの大手映画館チェーンKINOPOLISが発行する月刊誌「SKIP」2002年2月号に、ライナー・マツタニのコメントが載っていたので下記に部分訳を紹介する。

SKIP誌(以下Q): 「666ベッドは魔の領域」は従来のドイツのラブコメとどういう点が違うのでしょうか。

ライナー・マツタニ(以下A): いろんな点で違ってますね。「666」は、一定期間連れ添ってきたカップルが遭遇する日常のごたごたを扱った作品ではありません。僕が参考にしたのは、アメリカのクラシックなスクリューボールコメディーとか、エルンスト・ルビッチの「生きるべきか死ぬべきか」(注:第二次大戦前夜のワルシャワが舞台になっている)とかのお気に入りの映画で、何よりもテンポ・タイミング・ギャグに重きを置きました。

Q: カティア・リーマンも出演した、あなたの初めてのヒット作「デッドボディ」は大好評でしたが、あれから今まで6年間劇場映画が出ませんでしたね。

A: 「デッドボディ」以降、ドイツのコメディーを撮ってみないかという申し出をたくさんいただいたんですが、はっきり言ってこれぞという作品に出会いませんでした。僕はどちらかというとB級畑の人間だし、ジャンルものを撮ってみたいと思っていたので、テレビ向けのSFとかホラー作品なんかを受注してたんです。

Q: どうしてSFやホラーが好きなんですか?

A: 子供の頃、広島で暮らしてたんです、父が日本人なもので。70年代前半のスーパーヒーローもののアニメをガンガン見て育ったんですよ。こういうアニメは今ではヨーロッパにもたくさん入って来てますけど、僕は当時すでにどっぷり浸ってましたね。その後ヨーロッパに移住した時にはカルチャーショックを受けました。だってこっちのテレビでは、人形劇とかみつばちマーヤがやっと始まったばかりという段階でしょう。もう、ボーゼンって感じでしたね(笑)!僕の今のスタイルは子供の頃に形成されたんです。僕のグロテスクやファンタジーに対する愛着の根底には、日本のテレビの影響があるのです。

3.「合わなきゃ、合わせるまで」(原題:Was nicht passt wird passend gemacht:2001年独、監督ペーター・トルワルト)

 大学の建築学科を優秀な成績で卒業しても、現場で大工さんにナメられて使い物にならない建築家が時々いると聞くが、この作品の主人公フィリップ君はまさにその代表格のようだ。エリート建築家としての輝かしいキャリアを踏み出す手始めに、建築現場で軽く実習を済ませる予定だったが、そこで待っていたのはホルスト、カッレ、キメルのハチャメチャ3人組み。なぜか3人に顎で使われる、フィリップにとって地獄のような日々が始まった。現場の作業はいい加減そのもの。「合わなきゃ、合わせるまでよ!」を合い言葉に、考えられないズサンさで工事は進んで行く。

 ある日、ポーランド人の不法労働者マレックが現場で事故死してしまう。これは建築会社から金をゆするための3人組みの悪知恵で、マレックは実は生きているのだが、フィリップが真に受け悩みぬく姿がコミカルに描かれている。ゆすり取った金を元手に株で一財産を築いたマレックは、結局建築会社の新社長となる。マレックのしゃべるポーランド語まじりの片言のドイツ語は非常に笑えた。このマレックに象徴されるドイツ人から見たポーランド人像は(1)得体が知れず不気味(2)人はよさそう(3)いつの間にやら、ちゃっかり金もうけをしている、といったところだろうか。

 3人組みに無理矢理酒を飲まされ、夜の歓楽街に繰り出すフィリップを、一見こわそうなアラブ人風の風貌の用心棒が呼び止めるシーンがある。「あれっ、フィリップ?こんな所で何やってんの?」彼はフィリップの大学の同級生だったのだ。歓楽街でアルバイトをしているらしい。「僕たち、一緒に建築の勉強してんだぜ!」アラブ風の青年は3人組みともすぐに意気投合してしまう。真面目一徹のフィリップだが、意外に人望があるようだ。

 この作品には他にも外国人が数多く登場する。3人組みのうちキメルはトルコ人で、家族思いの心優しい一面も描かれている。ドイツでは目下、新移民法案をめぐる議論が過熱しており、ともすれば、外国人は選別すべきもの、制限すべきものという面だけが強調され、外国人に対する理解と寛容が縮小しかねない雰囲気があるが、ドイツの若手監督が撮るコメディーにそういった風潮を吹き飛ばすエネルギーを見る思いがし、勇気づけられた。なおフィリップというのは平凡でありふれた名前なので、最近経営が破綻したドイツの大手ゼネコン「フィリップ・ホルツマン」社をもじったものかどうかは不明である。

(2002.04.17)